前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

第38話

カチュアは悩みに悩んだ。
水龍様からも諭された。
人間も山羊や羊を飼い、その命を奪って食べている。
美味しものが食べたくて、好んで子羊や子山羊を食べる者もいる。
だから、一方的にドラゴニュートを責めることは出来ない。

それでも、我慢出来なかった。
人間の行いを棚に上げて、身勝手な事だと分かっていた。
分かってはいたが、人を飼って子供を産ませ、その子を食べているのは。
我慢の限界を超えてしまった。
人目線の身勝手な想いなのは分かっていた。

それでも我慢出来なかった。
ドラゴニュートを許せなかった。
だから探した。
水龍様が仰っていた、竜に勝る人間を。
勇者英雄と言われる人を。

だが同時に、人の身勝手さも理解出来るようになっていた。
何の見返りもなく、竜に挑んでくれる人は滅多にいないと理解していた。
だから自分の身を捧げる事にした。
竜を退治した者を婿に迎える決断をした。
つまり、サライダ王国の王配になれるのだ。

「駄目でございます。
御嬢様」

「何故なの。
ドラゴニュートは、人を飼って食べているのよ。
許されない事だわ」

「御嬢様は分かって言っておられますね。
目を見れば分かります。
人が羊や山羊を飼って食べているのと同じだと。
分かっていて、ドラゴニュートだけを非難しておられますね」

「でも、でも。
私達と同じ人なのよ。
同じ人間が子供を孕まされて食べられているのよ」

「羊の英雄や山羊の英雄がいれば、同じ事を言ったでしょう。
我々がそれを理由にドラゴニュートを滅ぼせば、羊の神や山羊の神が、我々に天罰を下しますぞ。
水龍様の教えに逆らえば、水精霊様の加護を失う可能性もありますぞ。
それに飼われているのは、水精霊様を穢した大悪人でございますぞ。
王城に盗みに入った、犯罪者でございますぞ」

「分かっているの。
分かってはいるのだけれど、胸が痛いの。
毎晩夢に見るの。
赤ちゃんや子供が食べられる悪夢を見るの。
助けてあげたいの」

「御嬢様の御優しさは素晴らしいと思います。
その御優しさが、水精霊様の加護を、我らに与えてくれているのも理解しております。
ですが、信賞必罰でございます。
善人は褒め称え、悪人は罰さなければなりません」

「そうだよ、カチュア。
今のサライダ王国は、火竜と盟約を交わしているのと同じなのだよ。
その盟約は、水龍様の後押しでなされたも同然なのだよ。
それを破るのは、王太子やメイヤーと同じ悪行なのだよ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁん」

カチュアは、城代と父の説得を受けて、勇者英雄を呼び寄せるのを諦めた。
だが心労で寝込んでしまった。

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