大国王女の謀略で婚約破棄され 追放になった小国王子は、 ほのぼのとした日常を望む最強魔法使いでした。

克全

第200話紅花村1

「まあぁ、なんて美しいのでしょう」
「そうだね。驚くほど美しいね」
余とガビの目の前に広がる光景は、一面の花畑だった。
鮮やかな、今まで見た事のないような鮮やかな赤い色彩が広がっている。
これほど美しい花畑があるとは思っていなかった。
「ルイ様。少し空から見てみませんか」
「いいけれど、村人を脅かしてしまってはいけないよ」
「分かっておりますわ。認識疎外と気配消去の魔法をかけますわ」
「それなら大丈夫だね」
余とガビは、それぞれ魔法を重ね掛けして、空を駆けることにした。
高く低く飛びながら、いろんな角度から紅花畑の風景を愉しんだ
「ルイ様。風になびく風景を見たいですわ」
「村人を驚かしたり、花が散ったりするような、強い風はいけないよ」
「分かっておりますわ」
ガビは細心注意を払って微風を送り、紅花畑を波打たせた。
そこ光景は目をくぎ付けにするくらい美しかった。
やはりガビは芸術眼がある。
余は自分で風を起こしてまで光景を作ろうと思わない。
「ガビ。そろそろいかないか」
「待ってくださいませ。もう少し愉しませてください」
「分かったよ」
ガビが二時間ほど風景を楽しんだので、流石に時間を持て余した。
どれほど美しい光景であろうと、二時間も見ていられない。
だが、ガビがもっと見たいと言う以上、一緒にいなければならない。
とは言え、更に三時間は長すぎる。
「ガビ、そろそろ御飯にしないかい」
「そうですわね。御腹が空きましたわね」
「じゃあ村の宿に入ろう」
「はい」
自分達で作った昼食を食べてから、村長に話を聞こうと昼過ぎに紅花村に入ったのだが、もう夕闇が迫っている。
何度も風景観賞を切り上げようと思ったのだが、ガビが夕日に映える紅花畑にも夢中になっていたので、こんな時間になってしまった。
直ぐに闇が訪れてしまう。
いくら巡検使だとはいっても、非常識な時間に村長を尋ねるわけにはいけない。
「一番上等な部屋は空いているか」
「御貴族様ですか」
「そうだが、空いていなければ野宿をするから構わん」
「そんな事は出来ません」
やれやれ、困ったものだ。
まだ前王国の悪癖が残っている。
前王国の法律では、貴族が宿に訪れたら、一番いい部屋を空けなければならなかった。
先に平民の泊り客が入っていても、平民を追い出して一番上等な部屋を空けるのだ。
まあ、普通貴族に、雑魚寝部屋で寝ろとは言えない。
常識的な貴族なら、チップをはずんで先客に移動してもらうものだ。
だが余とガビなら、自分で野宿用の家を創り出す事が出来る。
そしてその家の方が、大抵の宿屋より居心地がいい。

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