大国王女の謀略で婚約破棄され 追放になった小国王子は、 ほのぼのとした日常を望む最強魔法使いでした。

克全

第87話エルフ

ルイとダイが奥山岳地帯を越えて、東へと気ままに旅を続けた。
人跡未踏の地を安全をはかることなく、よほどの急峻でなければ地上を歩いて旅するのであった。
もちろんクリューサーオールとペーガソスに騎乗しているのだけれど、風景を楽しみ、風の歌を聞きながら、狩りで獲物を取り、のんびりと旅を満喫していた。
だがそんな楽しい旅も、わずか一週間で終わってしまった。
「やれやれ、結界のようですね」
「はい。それもかなり強力な結界です」
「何者だと思いますか?」
「おそらくはエルフだと思われます」
「エルフは気位がたかいのでしたね?」
「はい。高慢な性格をしています」
「それは困りましたね。そんな一族とはお近づきになりたくないですね」
「では迂回なされますか?」
「そうですね。なにもこちらからあいさつする必要もありませんし、急ぐ旅でもありませんから、大きく左に迂回しましょう」
ルイとダイはエルフの支配域に入らないつもりだったのだが、事もあろうにエルフの方からルイとダイに接触してきた。
「おい、人間。我らの領地に勝手に入ったこと許しがたい、土下座して謝れ」
「ちょっとやめなさいよ! ここは結界の外じゃないの」
「ふん! 結界の外であろうが、この一帯はエルフのモノだ。人間のような下賤下劣な動物がうろついていい場所ではない。高貴な場所を汚した人間を罰するのは当然だ!」
「なに恥ずかしいことを言っているの。そんなことを言っているからエルフは高慢だと言われるのよ」
「それは違うぞ! エルフは高慢なのではなく高貴なのだ!」
「やれやれ。本当に傲慢な生き物ですね」
「なんと言った人間! 我らエルフを傲慢と申したか!」
「ええそう言いましたよ。今耳に入った会話だけでも、エルフが思い上がっているのが分かります」
「傲慢なのは人間の方だ! 土下座だけで許してやるつもりであったが、そのように思い上がった口をきくのであれば、もっと恥ずかしい目にあわせてやろうではないか」
「ちょっと本当に止めなさい」
男女二人連れのエルフのうち、男がエルフ族の典型的な高慢な性格であるのに対して、女の方は優しい性格のようだった。
そんな二人のエルフが、ルイとダイをどうするかもめている間に、エルフ結界の中で尋常ではないくらいに魔力が一気に高まり、それが弾けて一面に魔力を放出してしまった。
「まずいわ! 実験が失敗してしまったわ!」
「そんなはずはない! 我々エルフ族に失敗などしない!」
「バカな事を言ってないで直ぐ戻るわよ!」
「ちぃ! 命拾いしたな人間」
何やらあわてた様子で、二人組のエルフは結界の奥に戻っていった。
「いつ会っても不愉快な連中です」
「ダイは以前にもエルフ族に会っているのですね?」
「はい。長い放浪生活の間に何度か出会っていますが、自分たちこそ神に作られた最高の生き物であり、神に最も愛されていると妄信している愚か者でございます」
「本当に高慢なのですね」
「はい。あの程度の魔力しかないにもかかわらず、神々の寵愛を受けていると思い上がる世間知らずでございます」
「そうですか。そんな愚か者とは関わり合いになりたくないのですが、どうやらそうも言っておられないようですね」
「はい、ずいぶん物騒な気配がしてまいりました」
「魔境の魔素ではないようですが、嫌な感じですね」
「私が様子を見て参りましょう」
「いや、一緒に行った方が何事にも対応できます。一緒に行きましょう」

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