大国王女の謀略で婚約破棄され 追放になった小国王子は、 ほのぼのとした日常を望む最強魔法使いでした。

克全

第74話飛竜

「キャー!」
カーラが絹を裂くような悲鳴を上げる。
「飛竜の相手は私たちがしますから、カーラは村に戻っていなさい」
カーラは気丈に振舞おうとするのだけれど、さすがに飛竜のブレスを間近に見ては、とても心と行動を一致させることができず、箒の上でブルブルと震えていた。
何か言い返そうとしているのは分かるが、歯の根が合わないほどに口周りも震えていて、とてもこの場にとどまれる状態ではない。
ルイとダイは、毎日魔境で銅級から金級の魔獣を狩り、フィン王国の襲撃から立ち直ろうと努力する獣人の村々に差し入れていたのだが、カーラが付いていきたいと懇願したので、しかたなく同行を許したのだ。
だが運がいいのか悪いのか、事もあろうに上級属性竜の飛竜と遭遇してしまい、ルイの防御魔法で完全に防いでもらったとは言え、その迫力に魂まで恐怖してしまったのだ。
しかしルイとダイにとっては、飛竜と言えど美味しい獲物でしかなく、ルイが飛竜を狩ろうと近づく側では、ダイがサクサクとワイバーンを狩っていた。
一度飛竜にブレスを吐かせてしまえば、再度ブレスを吐くまでには時間がかかるので、普通の冒険者はいかに自分たちの安全を図ってブレスを吐かせて、次のブレスまでに飛竜を倒すかが大切なのだ。
だが規格外すぎるルイとダイは、飛竜のブレスを魔法防御でゆうゆうと防ぎ、超圧縮した風魔法を耳から脳に叩き込み、素材としてほとんど損なうことなく飛竜を狩るのだから、その真の強さがどれほどなのか知りようもないほどだった。
「待ってくれ! 謝る。もう人間を襲わないから許してくれ。いや、許してください」
二頭いた飛竜の内一頭が、相方が瞬殺されたのを恐れて、空中で土下座のような姿勢を取り、必死で命乞いをしてくる。
「人間だけではダメです。ありとあらゆる獣人も、この魔境で狩りをするのを襲ってはいけません。あなただけではありません。他の飛竜はもちろん、ワイバーンも魔獣も襲わせないようにしなさい」
「それは無理だ! 飛竜やワイバーンなら、貴方様方の強さを見せれば襲わなくなるが、それ以外の魔獣は闘争本能が強いので、人間や獣人を襲わせないようにするのは無理だ」
「それでは何か見返りをよこしなさい。貴方だけではなく、他の飛竜やワイバーン全員、殺さない代わりに見返りを渡すのです」
「見返りと言われても、長年集めた光物があるくらいで、人間や獣人が望むモノが分からない」
「貴方方飛竜やワイバーンの爪や牙、剥がれ落ちた鱗と羽を渡すのです」
「鱗や羽ならいくらでも渡すが、爪や牙はかんべんしてくれ! 爪や牙を失ったら、狩りが出来なくて飢え死にしてしまう」
「しかたありませんね。貴方方を狩らない代わりに、毎日剥がれた鱗や羽毛を魔境の境界に置いておきなさい」
「分かった。だが他の飛竜やワイバーンを説得する為には、貴方方の強さを見せつけていただきたいので、明日決まった時間にここに来て欲しい。私はこの魔境に住む全ての飛竜とワイバーンを集めておく」
「分かりました。では明日今日と同じ時間にこの場所で会いましょう」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品