大国王女の謀略で婚約破棄され 追放になった小国王子は、 ほのぼのとした日常を望む最強魔法使いでした。

克全

第28話激怒

「ダイさん、じゃまはしないでください」
いつもと同じように優しく話しかけるルイであったが、その言葉に内包される怒りの強さに、極東で妖怪と恐れ忌み嫌われたミカサ公爵家でも別格の強さを誇るダイが、次の言葉をつぐむことが出来ないくらいであった。
「やいやいやい、ここの流儀に従うのか従わないのかどっちなんだ?! 従うならお頭に土下座して謝って金払えや!」
ドグ!
普通のケンカで生ずるような、激しく高い音は起こらなかった。
激怒したルイの拳は、相手を殴り飛ばすような優しいものではなく、ダメージを相手の体内にとどまらせ、骨を粉砕し内臓をグチャグチャにする恐ろしいモノだった!
先ほどまでルイに悪態を吐いていたチンピラ冒険者は、即死できないようにギリギリ限界の力で殴られ、心臓以外の内臓を破裂どころか液状にまで破壊され、それでも血管は破壊されず、激烈な痛みに苛まれながら生きていた!
その場は水を打ったように静まっていた。
唯一発せられる音は、地獄の痛みに身体をピクピクと痙攣させるチンピラ冒険者だけだった。
ルイはふらりと動くと、一番身近にいた冒険者の顔に優しく触れた。
だがその結果はあまりに恐ろしいもので、冒険者の上顎から下の顔は、熟して爆ぜる寸前のトマトのようになり、骨も肉も液状に粉砕されていた。
「若」
ダイが様の言葉を言う前にルイは次の冒険者を血祭りにあげていた。
銀級の冒険者証を首から下げていた者が、手首・肘・肩・足首・膝・股の関節が、全て粉砕されてあらぬ方向に向いていたのだ。
次にルイの眼が捕らえたのは、チンピラ冒険者がお頭と言って視線を向けていた冒険者だった。
この冒険者ギルドで最高の金級冒険者証を、ひけらかすように首から下げ、左右に銀級冒険者証を下げた下卑た顔の冒険者を護衛のように置いていた。
だが、金級冒険者も護衛役の冒険者も、まるで蛇に睨まれた蛙のように、ピクリとも動くことが出来ずに、ルイが近づくままだった。
だがここでようやくダイが動いた!
ルイに人を殺させるわけにはいかないと思ったダイは、ルイの怒りを無視してでも行動すべきととっさに考え、背後からルイの前に出ると、得意の槍の一撃で金級冒険者と護衛の冒険者を抹殺した。
怒りに我を忘れたかのようなルイであったが、最後の一線で理性を保っており、殺人だけは避けようと怒りの心とせめぎあっていた。
だからこそ、本気ならダイより先に殺せるはずの金級冒険者と護衛の冒険者を、ダイに先を越される形で殺させることになったのだ。
ダイはルイに人殺しをさせないために、万が一のことを考えて、冒険者ギルド内にいる全ての冒険者を突き殺した。
老人や孤児たちに実際に暴力を振るっていなくても、見て見ぬ振りをしていた者も全て殺すことにしたのだ。
今はルイに殺気に当てられて、ただぼうぜんとこの凶行を見ている役人とギルド受付であったが、後々毎夜この光景を夢に見るようになり、ルイとダイが自分を殺そうと迫ってくる悪夢を見るに及び、恐怖で狂うことになる。

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