「異世界動画で億万長者・ドローンの御蔭で助かっています」(神隠しで異世界に迷い込んだ人間不信の僕は、又従姉の助けを受けて異世界で生き残ろうと必死です)

克全

第47話続アバーテ準男爵家

「アバーテ卿、降伏して城を明け渡すのなら、卿と家族の命は保証しよう。更に家財を運びだすことを許し、領民の命と財産も保証する。ここは家臣領民の事を考え、潔(いさぎよ)く城地を明け渡してもらいたい」

べアトリクスは、俺がドローンを使って購入した拡声器(メガホン)を使い、遠方からアバーテ卿と交渉していた。アバーテ卿や指揮下に入ったばかりの傭兵・冒険者が、顎が落ちそうなくらい驚いている。拡声器は俺が開発した魔道具と言う設定になっているが、異世界ではこれほどの魔道具を作れる者は大魔導師と言う扱いなのだろう。

バッハ聖教皇家から騎士に叙勲された俺・サートウ卿は、これで魔道具開発者の大魔導師で、男爵以上の貴族待遇と言う事になる。まあ拡声器は武器としての性能は皆無だが、戦場で指揮を執る上で非常に役に立つ道具だから、開発者は名誉を与えられて当然なのかも知れない。

「アバーテ卿と家族の無事は、バッハ聖教皇家の勅使であるオウレリ卿が保証してくれる」

ドローンから送られてくる映像を見ていると、べアトリクスの言葉を受けて、いかにも没落貴族と言える男が奪うように拡声器を受け取り、必死の形相で説得に当たり出した。勅使は説得に成功し、アバーテ卿・領民・城の3つを無傷でを手に入れる事ができれば、金貨100枚の報酬を貰えると言われ、形振(なりふ)り構(かま)わず説得に当たり出したのだ。

「アバーテ卿の無事は私が保証する! 教都までは私が500の兵で護衛するから何の心配もいらない、安心して出てくるがいい」

「勅使殿、素直に降伏して城地を明け渡したら、領民の年貢を1年間免除しましょう。そうアバーテ卿に伝えて下さい」

龍子姉さんの指示を受けたべアトリクスは、勅使に領民の年貢免除を伝えた。自分たちが略奪侵攻に手を貸した、ローゼンミュラー家からの年貢免除の言葉は信じられないだろう。だがバッハ聖教皇家の勅使からの言葉なら信じてもらえるかもしれない、しかもこの言葉は毒でもあるのだろう。

龍子姉さんは、敵と判断した相手は情け容赦(ようしゃ)なく攻め立てる。異世界での事なら、日本の法律に縛られる事無く、異世界の流儀を限界一杯使って攻撃するだろう。その1つが今回の説得に込められた毒で、アバーテ卿が頑強(がんきょう)に籠城を行えば、城の中に逃げ込んでいる300余人の領民も攻防に巻き込まれることになる。そうなると家財だけではなく、命すら失う事になるだろう。いや、死ぬよりも辛いような生活、奴隷として売り買いされる事になる。

だが今降伏すれば、戦に巻き込まれない上に、1年間年貢が免除されるのだ。ミヒャルケ侯爵軍が駐屯したことで、田畑を荒らされた領民に取ってこれほどありがたい処置はないだろう。このままアバーテ卿に味方しても、戦に負けたアバーテ卿が増税することはあっても免税は有り得ない。

いや、ローゼンミュラー家に忠誠を示し、城内で反乱を起こしてアバーテ卿の首を取れば褒賞(ほうしょう)すら手に入れる事が出来るかもしれない。領民たちはそう考えるであろうし、アバーテ卿が馬鹿で無ければ、領民たちがそう考えると直ぐに理解する。

さて、アバーテ卿はどう決断するのだろう?

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