「異世界動画で億万長者・ドローンの御蔭で助かっています」(神隠しで異世界に迷い込んだ人間不信の僕は、又従姉の助けを受けて異世界で生き残ろうと必死です)

克全

第1話マニアの狂演に出くわしてしまいました。

「うっわ!」

「どきやがれ! あぶねえだろ! 死にたいのか!」

「いやその」

「じゃまじゃまじゃま!」

「どりゃ~」

おもいっきり蹴り飛ばされました!

生活のため、廃墟動画(はいきょどうが)を撮って投稿するつもりでしたが、霧にまかれて身動きが取れなくなっていました。そんな時に人の声がしたので、その声を頼りに霧の中を慎重(しんちょう)に進んだのですが、いきなり怒鳴(どな)りつけられ蹴(け)とばされてしまいました。

気を取り直して周りを見渡した僕が見た光景(こうけい)は、信じられないものでした!

こんな場所に熊がいるなんて聞いていません!

もっと山奥ならともかく、ここは結構知られた場所で人気もあります。平日だから山ガールや登山者(とざんしゃ)にも会わなかったけど、休日なら誰かと出会って当然の人気スポット。人の気配も多いから、熊だってホイホイ出てきたりしないはずなんだ。

そうか!

落ち着いて見てみれば、着ている物も持っている物もおかしすぎる。騎士(きし)のような鎧を着て、両手で持つような大型の剣を振り回している者もいれば、アニメのような魔法使いの衣装で杖を持っている者もいる。どうやらテレビか映画の撮影(さつえい)に出くわしてしまったようだ。

しかしいくら撮影の邪魔(じゃま)だからと言って、人を問答無用(もんどうむよう)で怒鳴りつ蹴り倒すなど身勝手すぎる。マス塵の連中は、自分達の利益の為なら一般人を押し退けても正義だと思っている。本当なら文句の1つも言いたいが、そんな事をする勇気はない。心の中で怒鳴りつける夢想(むそう)だけして離れていよう。

一通り撮影が終わったら撮影隊も撤収するだろう、だが本当にリアルだな、熊の断末魔も俳優さんたちの装備も本物そっくりだ。よほど予算が豊富な大作を撮っているのだろうが、演じている俳優さんは誰だろう?

「おい、おまえ、いつまで我がローゼンミュラー家の領地にいる心算(つもり)だ!」

なんだこいつ?

俺をここから追い散らす心算なのか?!

身勝手にも程があるだろう、だがこの場面も撮影しているのか?

だがおかしいな?

撮影しているはずのカメラも無ければ、監督や助監督などの撮影スタッフが1人もいない。それに普通なら、撮影の邪魔にならないように下っ端のスタッフが規制をしているはずだよな。

「我が領地に入り込み、謝りもせずだんまりを決め込むなら、問答無用で切り殺すぞ!」

拙(まず)い!

マニア達が、本当に冒険者になったつもりで狂っているなら殺されるかもしれない、ここは謝って逃げよう。

「ごめんなさい、直ぐ出て行きます」

俺は後ろも見ずに来た道を駆け戻ったが、30分も走れば息が切れてしまう。

「キャー!」

なんで?!

なんでまた熊に行き当たってしまうの?

しかも少女が熊に襲われている現場なんて、偶然が酷(ひど)すぎるよ!

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