王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第79話制圧戦一

「おのれ! 卑怯者め!」
「そうだ! 正々堂々と戦え!」
「麻痺」
「・・・・・」
「乱暴に扱わず、丁寧に移動してくれ」
「承りました」
バルテルス首長家の制圧は簡単だった。
バルテルス首長家も背後にいるゼスト王国も、ネッツェ王国のイブラヒム王家の事を狙っており、我が国とは競争相手ではあっても、敵対関係にはないと思っていたようだ。
だから我が国の侵攻は奇襲攻撃になり、バルテルス首長家も直ぐに迎撃が出来ず、背後にいるゼスト王国も援軍を出せなかった。
一首長家が動員できる戦力は二万五千兵ほどだが、騎兵は二千五百騎程度だ。
城に籠って戦うのなら、十分守り切れる兵力だが、平原での機動戦をするなら我が軍が圧倒的に有利だ。
バルテルス首長家は、これをイブラヒム王家と開戦する好機と考えたようで、イブラヒム王家に援軍を依頼した。
バルテルス首長家から見ても、今のイブラヒム王家に援軍を出す余裕などないと考えたのだろう。
同時にそれを理由にネッツェ王国から離脱し、更に宣戦布告をして王都に攻め込む予定なのだろう。
もちろんゼスト王国の援軍を計算した上だ。
だから我が軍の迎撃には出てこなかった。
領都に全軍を集め、イブラヒム王家の出方を見た上で、ゼスト王国の援軍を待って我が軍を破り、その上でネッツェ王国の王都に攻め上る予定だったのだろう。
確かにネッツェ王国とイマーン王国が連戦連敗を繰り返し、多くの領地を失った敵国、我が国に勝ったとあれば、その名声は鰻登りで、ネッツェ王国を纏める原動力となっただろう。
勝てればだ。
勝てるはずがないのだよ。
ネッツェ王国とイマーン王国が、全力で攻めかかっても勝てなかった俺に、一首長家が勝てるはずがないだろう。
だが迎撃に来なかったのはありがたかった。
冒険者兵士から冒険者騎士に成った部下も、アリステラ王国から仕官してきた士族や卒族も、慣れない乗馬や配下の指揮命令で、小さなミスを沢山沢山繰り返していたから、実戦訓練としては大助かりだった。
占領したバルテルス首長家の街や村は、全く抵抗しなかった。
抵抗しようとしても、俺の麻痺魔法と睡眠魔法で無力化されることを、今迄の俺の戦いぶりで聞き知っていたのだ。
だからネッツェ王国に残りたい民は、占領後に移動願を提出して、奴隷や家屋敷を残して街や村を去っていった。
悪徳商人や小狡い者は、密かに奴隷を連れ出そうとして、自分が奴隷に落とされることになったが、それは自業自得だ。
急がず騒がず、無理をして占領地の民に迷惑をかけないように、ゆっくりじっくり侵攻を進めた。
だがここで予定外の事が起こった。
戦力的にも資金的にも限界が来ているはずのイブラヒム王家が、国内な貴族士族に援軍依頼を出した上に、直属軍を率いてバルテルス首長家の救援に現れたのだ。
イブラヒム王家も、バルテルス首長家とゼスト王国の陰謀には気付いていただろうに、それでも無理に無理を重ねて救援に現れた。
しかも国内貴族士族には、命令となる動員令ではなく、援軍を御願いするという下手にでたのだ。
他の首長家はもちろん、有力な貴族家や士族家なら、バルテルス首長家の叛意には気付いていただろう。
そしてイブラヒム王家は、援軍を待たずに我が軍に向かってきた。

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