王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第66話攻城戦:第三者視点

「かかれぇ~」
ネッツェ王国の軍団が攻めかかってきた。
想定通り、五万の騎馬軍団と五万の奴隷歩兵をラボック城にぶつけてきた。
更に想定通り、此方に兵力を分散させる策もとってきた。
旧イマーン領に山岳部にある、デートン城、ルイビル城、サバナ城、メーコン城にも騎兵1万騎と奴隷歩兵一万を送り込んできた。
デートン城にはパトリックを派遣した。
ルイビル城にはマーティンを派遣した。
サバナ城にはロジャーを派遣した。
メーコン城には成長著しいジェスロ・マッカンを派遣した。
ジェスロ・マッカンは個人武勇の成長も著しいのだが、何より兵士を統率する力に優れている。
今迄アーサーが行ってきた事は、元々統率のとれた家臣や冒険者を率い、訓練を兼ねた魔境での狩りが多かった。
だから近習も統率力が問われることが少なかった。
だが今回のイマーン王国侵攻戦で、多くのイマーン国民を奴隷して、忠誠心のない群衆を率いていかなければならなくなった。
そこで近習衆も、多くの奴隷の面倒を見る役目を与えられた。
奴隷兵士の指揮官として、個々の武術訓練や集団での防衛訓練を行わなければいけない。
奴隷農民の支配者として、開墾や農耕を指導しなければいけない。
奴隷牧畜民の統率者として、乗馬や動物の扱いを教え、逃亡対策も講じなければいけない。
そんな新たな局面を迎え、大勢の中に埋没していた近習の中から、メキメキと頭角を現す者がいたのだ。
そんな近習の一人ジェスロ・マッカンは、焦る気持ちを必死で抑えていた。
ネッツェ王国の奴隷歩兵一万が、津波のように攻めかかってきたからだ。
だが幅三十メートルもある水濠を渡る事など出来ない。
彼らが攻めかかってきたのは、水濠の幅が十五メートルに狭められた城門前だ。
だが高さ十五メートルの跳ね橋を上げてあるので、仮橋をかけるか、一旦水濠を泳いで渡り、城壁に取りつかなければならない。
そんな訳でネッツェ王国軍の攻撃はモタモタしたものなった。
ネッツェ王国軍の一斉攻撃に、最初は緊張していた守備隊の奴隷兵士も、水濠の落ちて溺れる敵兵を見て落ち着きを取り戻していた。
アーサー領の奴隷達にとっては、防衛戦に参加して手柄を立てれば、平民に解放してもらえる大チャンスだ。
緊張や恐怖は当然あるものの、希望も欲望も同居している。
「え~い、何をモタモタしている!」
城門前の水濠際でモタモタしている奴隷兵士に苛立った指揮官が、事もあろうに奴隷兵士に蹴りを入れた。
そして次々と奴隷兵士を水濠に蹴落としている。
それを見た他の指揮官達も、配下の奴隷兵士を蹴落とし始めた。
奴隷兵士の装備など貧弱なモノだが、それでも服を着てその上から防具を装備しているのだ。
それを無理矢理深さ三十メートルの水濠に蹴落としたのだ。
何より奴隷が水泳の練習などしているはずもない。
ネッツェ王国軍の奴隷歩兵の過半数が、まったく戦う事もなく溺死してしまった。

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