王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第64話開戦?

「これが王太子殿下からの恩情だ。有難く受け取れ」
「ベニート殿、その口の利き方は、陪臣とは言え今回の戦争の功労者であるアーサー殿に対して、あまりにも失礼ですぞ!」
「グレアム殿。私は王国男爵家の嫡男。准男爵扱いの貴族。アーサーは士族の士爵。しかもアッバース首長家の陪臣。何より我々は王国からの正式な使者。命令するのが当然だ!」
「しかし、ベニート殿!」
「黙れ、グレアム! 私が正使で御前は副使だ。しかも御前は将軍だから貴族扱いされているが、元々は騎士でしかない!」
やれやれ、ベニートという奴は、ネッツェ王国随一の軍師と聞いていたが、恐ろしく馬鹿なのだろうか?
いや、それは違うな。
俺をどれだけ懐柔しようと、いずれはアリステラ王国に合流すると見ているのだろう。
だから少しでも早く攻め滅ぼすべきだと考えているのだな。
正解だが、やり方を間違ったな。
「何故受け取らぬ。やはり貴様、最初からアリステラ王国の手先であろう」
「いいえ違います。今独立を決意しました」
「え?」
「なに?!」
グレアムもベニートも驚いているな。
「正使ベニート殿の余りに高慢な態度は、王家の私に対する侮辱と受け取りました」
「何を言っている!」
「アーサー殿、待たれよ!」
「待てませんよ、グレアム殿。グレアム殿なら、他国に乞われて仕えたのにもかかわらず、これほどの恥辱を受けて黙っていますか?」
「・・・・・」
「私がこの侮辱を受け入れるという事は、二百の家臣全てが侮辱されたのと同じです。侮辱されたら決闘を挑まねば騎士の誇りを失う事になります。違いますか?」
「違わない。その通りだ」
「ふん! 茶番は止めろ」
「茶番ですか?」
「そうだ。御前は最初から我が国の領地を切り取るべく、アリステラ王国から差し向けられたのであろう」
「やれやれ、手柄欲しさの痩せ犬はキャンキャンとよく吠えますね」
「おのれ、死ね!」
最初から言い争いにして俺を斬る心算だったのだろう。
一切躊躇いのない抜き打ちを放ってきた!
その踏み込みも剣速も恐ろしいほどの使い手だ。
ただしそれはネッツェ王国ならばの話だ。
アリステラ王国の、それも魔境冒険者から見れば、最初から気を付けていればそれほど恐ろしいものではない。
まして今回は、ベニートが俺を殺そうとしているのは、眼付と体の緊張で分かっていたことだ。
会談をする前から、各種身体強化魔法や防御魔法を自分にかけてある。
楽々と剣をよけて、逆に下顎が粉砕骨折するほど殴りつけてやった。
可哀想に。
男色趣味の王族が喜びそうな、男好きのする顔が台無しだ。
「さて、グレアム殿はこの始末をどうつけて下さるのですか?!」
「申し訳ない! 全てはこの男が独断でやったことだ!」
「本気で言っておられるのですか?」
「本気だ!」
「王国の正使が、会談中に会談相手を殺そうとする。それが国王の命令でないはずがない!」
「いや、本当にこの者の独断なのだ!」
「王国でも一・二を争う武名を誇るグレアム殿が、この者が剣を抜くのを止められなかった」
「それは・・・・・虚を突かれたからで・・・・・」
「そんな言葉、グレアム殿と戦ったことのある国々や貴族が信じると、本気で思っているのですか?」
「本当だ、本当に王国はアーサー殿を男爵に封じる心算だったのだ!」
「戯言はいい。これでネッツェ王国とは正式な戦争となった!」

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