王家を追放されたわけじゃないけど、世直しすることにしました。

克全

第60話調略2

「どうでございました?」
「アリステラ王国から輸入する家畜には、アッバース首長家の護衛を付けてくれるそうだ」
「それだけでございますか」
「影響力が及ぶ貴族士族には、余分の家畜があれば売ってくれるように、使者を送ってくれるそうだ」
「最初から素直にそう言ってきたのですか?」
「分かるか?」
「はい。イブラヒム王家から爵位を受けていいから、城と領地を半分よこせと言って来ると思っていました」
「その通りだ。ラボック城、ダラム城、アルタス城、デートン城と半分の領地を割譲するなら、イブラヒム王家の直臣になっていいとのことだった」
「御断りになられたのですか」
「ああ。イブラヒム王家の圧力に屈して、そのような不忠な事をするくらいなら、独立領主となって一戦交えると言ってやったよ」
「予定通りでございますね」
「ああ」
「しかしアッバース首長家は、このような荒れ地を手に入れて、採算が取れると思っているのでしょうか?」
「ああ、それと奴隷の半数をよこせとも言っていたな」
「奴隷の販売料金など、直ぐになくなってしまいますが」
「アッバース首長家の領地なら、アリステラ王国の影響力を背景にイブラヒム王家に反抗するにしても、ネッツェ王国の忠臣としてアリステラ王国と交渉するにしても、国の反対側に飛び地があるのは大きいからな」
「領地経営で少々赤字が出たとしても、家を護る為の必要経費と言う事ですか」
「そう言う事だ」
「では殿はどの辺で手を打たれる御心算ですか?」
「まずは噂を流そう」
「アリステラ王国が殿に使者を送った事になされるのですか?」
「イマーン王国もだ」
「なるほど。二カ国から寝返るように調略の使者が来たことになされるのですね」
「そうだ」
「素直に信じますか?」
「アリステラ王国は俺の母国だし、家臣も全員アリステラ王国出身の冒険者兵士だ。実際に爺が家畜の群れを率いてやってきたら、間違いなく信じるだろう」
「イマーン王国の方はどうなのです?」
「アリステラ王国から爺が来れば、イマーン王国からも来たはずだと疑心暗鬼になるさ」
「左様でございますね。イマーン王国からの使者は、イブラヒム王家にもアッバース首長家にも確認のしようがありませんね」
「忍者は放っているだろうが、忍者が全てを調べ切れるとは思っていないだろうからな」
「アリステラ王国に寝返られないのですか?」
「今はまだ駄目だ。今寝返ると、俺もアリステラ王国も汚名を着ることになる」
「イブラヒム王家とアッバース首長家を争わせ、アリステラ王国に保護を求めても仕方がない状況を作られるのですね」
「その心算だ」
「そう心得ておきます」
俺はアッバース首長家からの使者に会った後で、パトリックと色々相談したが、結局は相手次第なのだ。
だが出来る事なら、イブラヒム王家とアッバース首長家が対応を間違えてくれて、正々堂々とアリステラ王国に臣従できるような状況になって欲しい。

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