女将軍 井伊直虎

克全

第104話中国地方の攻防16

1570年『近江・観音寺城』今川義直・直虎

「はい、吉川元春と小早川隆景への揺さぶりは絶対必要になります」

「しかし両家の本来の嫡流は絶えているのではありませんか」

「まずは吉川家から話しますが、確かに嫡流は絶えていますが、元春を吉川家の当主に迎えた吉川経世の血筋が残っています」

「党主である甥・吉川興経と幼い千法師を謀殺した裏切り者でしたね」

「はい、ですがそのような者の血脈だからこそ、元春を除いて自分が吉川家の当主になろうとする者が潜んでいるのです」

「既に接触をとっているのですか」

「奥から手を回して幾人か女を送り込んでいます」

「分かる範囲でまとめた系図がありますから、それを見ながら説明して下さい」

「分かりました」

吉川国経-吉川元経-吉川興経-吉川千法師
-大朝家経:謀反を起こし討ち死に
-吉川経世-市川経好-市川元教
-市川元好
-市川隆久
-今田経高-今田経忠
-今田春信
-今田春政
-今田春佳
-吉川経久
-宮庄経友:改易処分となり福原広俊の次男が養子に送り込まれる
-大塚経長:討ち死に

「今生き残っている、本来の吉川家男系で寝返りそうな者が本当にいるのかどうか、いや、裏切る気が無くてもいいのですね」

「はい、元就や元春は勿論ですが、毛利家や吉川家の家臣に疑念を抱かすだけで十分なのです」

「家臣に疑惑の目を向けられたら、それがきっかけで寝返る可能性もあると言う事ですね」

「はい、この中にいる者で、1人でも己が吉川家の当主になりたいと少しでも欲望を抱けば十分なのです」

「母上様から見られて、寝返りそうな者はおりますか」

「戦況次第ではありますが、市川元教は野望を持っているようです」

「吉川の名を捨てさせられているようですし、一門衆で家老と言う扱いでも不満があるのかもしれませんね」

「はい、今田家からも寝返る者が出るかもしれませんが、安芸吉川家だけでなく、石見の吉川家にも調略をしかけています」

「尼子を支援するのですか」

「それもありますが、石見で火の手が上がれば毛利の力を更に分散させられます」

「それもそうですね、吉川経安・経家の親子ですね」

「安芸吉川家の分家ですし、実父は久利淡路守で吉川経典の婿養子に入っていますから、安芸本家の家督を継承するのは少々無理があります。しかし少しでも毛利が不利になれば、進んで裏切る可能性もあります」

「問題は元就と元春が、吉川経世の子孫をどれだけ大切にしているかが試されると言う事ですね」

「はい、噂が立って家中から疑いの目を向けられた吉川・市川・今田の家を、いささかでも蔑ろにすれば一気に家臣団が崩壊する可能性があります」

「次は小早川家ですか」

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