女将軍 井伊直虎

克全

第64話丹後騒乱

1566年10月『近江・観音寺城』

「母上様、ついに始まってしまいましたね。」

「そうですね、思っていたより早かったですね。」

「9月23日に足利義栄様が摂津越水城に入城されました、それで強気になったのでしょう。」

「もっと京に近づいてからのほうが、御上や朝廷に対する圧力になったのではありませんか?」

「近江に義直様が4万兵とともにおられますし、丹波には新野親矩様指揮下の兵3万が攻め込んでいます、その指揮下に内藤宗勝が加わったことが大きかったのでしょう。」

「しかしそれにしても、大和の松永久秀を攻めるとは、これで三好家が完全に割れてしまいました。」

「紀伊の畠山高政殿も大和に攻め込んでいます、久秀殿が義直様に紀伊を与えるように動いているのを察知したのでしょう。」

「それは三好長逸も約束していたことではありませんか?」

「反故にいしたのでしょう。」

「そんな!」

「戦国の約束などその程度のものです、特に武力を持たない者には、約束を守らせる力などないのです。」

「私は三好長逸達に侮られたのでございますか!」

「そうです、三好長逸は義直様を侮ったのです。足利義栄様担ぎあげ、三好義継殿を虜にしておけば、誰も憚る必要はないと思いあがったのです。義直様との約束を踏みにじったのです。」

「おのれ長逸! これでもまだ京に攻め込んではいけませんか?」

「まずは大和に攻め込まれませ。」

「大和でございますか?」

「内藤宗勝に続いて、松永久秀にも臣下の礼をとらせるのです。それに大和の国衆・地侍にも、支配者は三好でも松永でもないことを思い知らさねばなりません。」

「なるほど。」

「楠十郎左衛門正孝殿を上手く使いこなされませ、大和・河内なら楠殿の名前が生きるかもしれません。」

「なるほど、早速北伊勢衆にも動員をかけます。」

「それと紀伊は母に任せてください、南朝縁の者達とは十分に連絡が取れております。」

「承りました。」


1566年10月『丹後』

新野親矩は、矢野弥三郎政秀(溝尻城・堂奥城)の降伏臣従を受けて、加佐郡を一気に制圧するように進軍した。一色義道は必死の抵抗を示したが、兵数と物量に圧倒され後退をするしかなかった。

丹後守護職を失っていた一色家には、国衆・地侍をつなぎ止めるのは実力しかなかった。しかし4万の大軍で侵攻する新野親矩の、丹波丹後方面軍には対抗しようがなかった。国衆・地侍が次々と離反したため、加佐郡の諸城は抵抗しなかった。建部山東支城・建部山西支城も次々と落城、ついには一色義道の籠もる建部山城も落城した。義道は中山城へと退いたが、中山城主の沼田幸兵衛が新野親矩に内通したことから、義道は中山城で捕虜となってしまった。

一色一族は観音寺城に送られ、新野親矩が丹後守護代として丹後の統治に当たった。

しかし一色一族の一色義清は奥丹後の国衆を統合し抵抗を図っている。


「今川家に降伏臣従した国衆・地侍」
一色義道・加佐郡の八田守護所及び建部山城に入る
本人も実弟の義辰も今川の人質として観音寺城に送られる
一色義清・実弟の義清を吉原城に配して丹後奥三郡を治めさせた
吉原城を出て弓木場に入る。奥丹後で今川家に抵抗中
一色義定・義道の嫡男も人質として今川家の観音寺城に送られる

矢野弥三郎政秀・溝尻城・進んで降伏臣従
矢野満俊・進んで降伏臣従
沼田幸兵衛・中山城主・一色義道を裏切る
石川浄雲斎・与謝郡亀島城主・進んで降伏臣従
石川左衛門尉秀門・与謝郡幾地城主・一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
稲富直時・与謝郡弓木城主・一色義有家臣・別名稲富祐秀。官途は相模守
佐々木義国に砲術を学び、独自の工夫を加えている
稲富直秀・稲富直時の男
稲富祐直・稲富直秀の男・官途は伊賀守・通称弥四郎。祖父直時に鉄砲術を学ぶ
後に稲富流(一夢流)を創始した。
井上佐渡守・小寺山城主・一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
岩田丹波守・長良城主・一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
氏家大和守・一色義有家臣・熊野郡代。
江木豊後守・倉椅山城主・一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
大江越中守・一色義俊家臣・与謝郡延利城主・別名成吉越中守。
小国若狭守友重・佐野備前守に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
小倉播磨守・与謝郡宮津城主・一色家五家老衆のひとり・丹後海賊衆を率いた。
一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
千賀兵太夫・大島城主・小倉播磨守家臣
野村将監・大久保山城主・小倉播磨守家臣
小倉筑前守・宿野山城主・一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
金谷伊豆守・与謝郡石川城主・一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
北庄鬚九郎・惣村城主・進んで降伏臣従
刑部玄蕃亮・与謝郡枝の城主・一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
栗田内膳正・鳥取城主・一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従
河島越前守一宣・高妻山城主・通称左衛門尉
足利義輝が松永久秀に謀殺後丹後国に落延びた
後に丹後国海賊衆を率いる
桜井豊前守・浜村城主・丹後国海賊衆を率いる
森脇相模守宗坡・加佐郡女布城主・一色家に忠誠を誓いやむなく降伏臣従

「国衆同盟を結成・奥丹後の独立勢力」
小出左京進・田原城主・奥丹後地方に勢力を維持した
千賀伊賀守・大島城主
島津藤兵衛・伊根城主
倉内通倫・亀山城主
橋本豊後守・岩ヶ鼻主
松倉周防守・松倉城主
小西宗雄・松倉周防守家臣
香久山勝右衛門
小西石見守・日村岳城主・小西政盛の男
駒沢主水・由良城主
近藤善明・吉原城代
近藤兵庫允光明・近藤善明の嫡男。
佐野備前守・意布伎城主
小国友重・友重城主
牧左京進・大井城主
白杉主税・名木館主
杉山出羽守・石丸城主
高岡貞正・与謝郡男山城主
高屋駿河守良栄・下岡城主・別名高屋良閑
高屋治部左衛門・良栄弟
高屋遠江守・良栄の嫡男
赤尾但馬守・木津城主
今井能世次郎・高橋城主
松本内蔵之助・日和田城主
田辺小太夫・須津城主・別名大内季武
野尻隠岐守・竹野郡野尻城主。
野村将監・大久保山城主・小倉播磨守家臣
疋田孫太郎・与謝郡温江城主・足利義輝家臣
足利義輝が謀殺されると一色松丸に仕えた。
藤田左衛門尉・与謝郡谷垣城主
松田山城守頼通・日ヶ谷城主
三上宗寶・志高城主。
三富豊前守・与謝郡泊城主・丹波国海賊衆のひとり
三富左馬亮・与謝郡菅野城主・丹波国海賊衆のひとり
三野対馬守・与謝郡本庄城主
由利助之進・丹波城主

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