女将軍 井伊直虎

克全

第62話越前制圧

『越前・一乗谷城』新野親矩視点

「景紀殿、ここは諦めて決断なされよ。」

「・・・・・分かりました、先鋒を引き受けさせて頂きます。」

朝倉義景は再三の降伏勧告を受け入れなかった、粘れば援軍が駆けつけてくれると思っていたのかもしれない。周辺国では、足利将軍家・美濃国の遠藤氏・越後上杉氏と友好関係を結び。遠方では薩摩国の島津氏・出羽国の大宝寺氏・安東氏・駿河の氏真・常陸国の土岐治英など、かなり広範囲にわたって外交を行っている。義直としても、領国に攻め込まれれば軍の1部を帰国させなければならない。

城内に蓄えられている軍資金や兵糧も莫大な量のようで、内政家としても中継貿易に頼っていた貿易を大陸との直接貿易路を開く事によって収益を上げていた。制圧した一乗谷館の近くにはガラス工房が作られ、新産業の開発も積極的に行っていたようだ。

義景個人は、戦よりも文芸に凝っていて、歌道・和歌・連歌・猿楽・作庭・絵画・茶道など多くの芸事を好んで行っていた。特に茶道には凝っていたようで、一乗谷館には多くの茶器(当時は高価な輸入品であった唐物茶碗や青磁花瓶、タイ製の壷など)が残されていた。

だが武芸も小笠原流弓術の達者で、度々犬追物を行って弓術を披露しているとも伝え聞いている。ここは直虎殿の言うように、何があっても義景を殺してしまうことだ。

見逃せば後々必ず義直様の仇になる!

先鋒の景紀殿と降伏臣従した越前国衆・地侍の猛攻で、一乗谷城の郭は1つ又1つと陥落して行った。義直様は軍資金の心配をする事無く、圧倒的な物量で城攻めを行う事が出来る。全ては尾張を中核にした貿易利益の賜物だが、最近は若狭を中核にした大陸貿易利益も増えて来ている。越前の湊と朝倉家が使っていた交易路を手に入れる事が出来たら、その利益も飛躍的の増大するだろう。ここは何としても城攻めを成功させなければならない。

23日の攻防で一乗谷城は落城した。

最後は義景も阿君丸の助命を願って来た。だがここまで抵抗した以上、最初と同じ内容での和議は無理だ。朝倉家の忠臣たちが必死で交渉したものの、以後越前の国衆・地侍が義直様に忠誠を尽すという条件で、得度して僧になることでの助命が精一杯だった。

しかし義景の妻妾に関しては、御構い無しで実家に帰ることが許された。これは直虎に慈しみ育てられた義直様の性(さが)だろう、妻妾に関しては何時も寛大な処置がとられる事が多い。


『一乗谷館』

「真柄直隆殿、真柄直澄殿、よくぞ来てくれた、貴殿たちに会うのを愉しみにしていたのだ。」

「「勿体無き御言葉賜り、恐悦至極でございます。」」

「貴殿たちの武勇の噂は、駿河の今川館にいた頃から聞いていた。貴殿たちのような剛勇無双な勇者が今川家に仕えてくれたら、天下泰平の為に役立つ事だろう。」

「天下泰平でございますか?」

直隆殿が真剣に聞き返してきた。それはそうだろう、京で公方様が三好に攻め殺されたのは知っているはずだ。これから今川家と三好家がどう動くかで、応仁のような大乱が起こる可能性は大きい。そうなれば諸国で多大な影響が大きく出るだろう。

だが今私が成すべき事は、直隆殿たちが義直様に刃を向けた場合の対応だ。ここで義景殿の敵を討とうとするものが皆無とは言えない、真柄家が独立性の強い国衆だからと言って安心は出来ない。

「そうだ、今川家が三好家に攻め込むことはない。そんな事をすれば御所の御上に類が及ぶかもしれないし、天下に大乱を巻き起こしかねない。だが三好が近江に攻め込んできた場合は戦うしかない、その時には天下泰平の為に戦うしかなくなる。」

「その時に我らに力を貸せと申されますか?」

「そうだ、真柄直隆殿と真柄直澄殿の武勇は、三国志に出てくる関羽や張飛に匹敵するであろう。期待しない方がおかしいだろう。」

「古の英傑に比肩した頂けるとは照れます。」

「いやいや、今回の加賀一向宗との戦いでの武勇も飛び抜けていると聞いておる、決して大げさではない。」

「重ね重ね有り難き御言葉、我ら兄弟の力が天下の為に御役に立つのであれば、御使い頂ければこれ以上の名誉はございません。」

結局戦後の論功行賞では、朝倉景紀に一乗谷城と景鏡の旧領が与えられた。景紀の旧領・敦賀と義景の蔵入地と、義直様に敵対して滅んだ国衆・地侍の領地は義直様の直轄領となった。寝返って義直様に味方した越前の国衆・地侍の大半は本領安堵となり、実戦に参加していない諸国の国衆・地侍は、軍役を負担しただけで恩賞はなしだ。義直様が銭で雇い直卒している将兵は銭扶持が加増されたり、一時的な褒賞銭が与えられた。

義直様は加賀の一向宗に莫大な銭を与えて協力に報い、越前加賀の国境を有利に確定した。その上で加賀一向宗の裏切りに備えた兵力配備を行い近江・観音寺城に帰えられたが、ここで義直様の将来を左右する大問題が待っていた。

朝倉景隆・越前安居城主・戦死
朝倉景健・景隆末子・降伏
山崎吉家・朝倉氏の外交官・年寄衆・戦死
山崎吉延(吉清)・吉家の弟・戦死
山崎半左衛門(了清)・吉家の弟・戦死
山崎吉健・吉家の息子・戦死
河合吉統・一乗谷奉行人・降伏
青木景康・府中奉行で収税、賦役、裁判・降伏
青木康忠・景康の息子・降伏
小河三郎左衛門・朝倉義景妻子を守るため自刃を思いとどまり和平交渉
久津見清右衛門・朝倉義景の妻子を護るために生き残る
斎藤兵部少輔・朝倉義景の妻子を護るために生き残る
高橋景業・史実で朝倉義景を介錯した。降伏
印牧能信・史実で信長の面前にて自刃した。降伏
鳥居景近・忠臣・降伏
毛屋猪介・猛将・降伏
真柄直隆・刀匠千代鶴の作による五尺三寸もの太刀「太郎太刀」を振り回す猛将
真柄直澄・兄・直隆と同じく五尺三寸の巨大な太刀を振るう猛将・兄弟降伏
真柄隆基・直隆の嫡男

前波景当・朝倉氏の直臣中筆頭・朝倉義景の奉行人
一乗谷付近の前波村を本拠とした地侍
前波吉継・景当の次弟
史実では織田信長に寝返る
堀江景忠・坂井郡三国湊の舟奉行・朝倉氏が滅亡寸前になると信長に降伏
堀江景実・景忠の息子
魚住景固・朝倉義景・年寄衆・朝倉氏が滅亡寸前になると信長に降伏
富田長繁・朝倉氏が滅亡寸前になると信長に降伏
戸田与次郎・朝倉氏が滅亡寸前になると信長に降伏
毛屋猪介・朝倉氏が滅亡寸前になると信長に降伏
大月景秀・北庄にて妙薬「万金丹」を創製
桜井景道
桜井正次
冨田勢源・中条流の遣い手・神道流の達人
眼病を患ったため剃髪し、家督を弟の冨田治部左衛門景政に譲った
富田景政・勢源の弟
溝江景逸
溝江長逸

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