女将軍 井伊直虎
第55話大出世
1565年2月『近江・観音寺城・本丸』
「義直様、侍所頭人就任おめでとうございます。」
「全て母上様の御蔭でございます。」
「先日遠江・三河・尾張・美濃・近江・若狭の守護と、北伊勢の分郡守護に任じられたばかりでの大出世、駿河からの刺客にはくれぐれもお気をつけて下さいませ。」
「はい、甲賀衆には伊賀衆の調略を進めてもらっています。」
「私も松平家に仕える服部という者を使って調略を進めています。」
「有難うございます母上様。」
「しばらくは京へ行かれるのは御止め下さい。」
「しかし御礼言上に行かねばなりません。」
「それは御隠居様に御願い致しました。」
「そこまで気を使わねばなりませんか。」
「はい、白拍子・歩き巫女の情報も、甲賀衆の情報も危険を知らせております。」
「承りました。」
翌日『近江・観音寺城・本丸』
「御隠居様、後の事宜しくお願いいたします。」
「任せておけ、ここまで来たら氏真よりも義直の方が今川家の当主に相応しいが、わざわざ武田や北条と波風を立てる事もない。公方も今川の分割を認めた、ここは俺っちが間に入って納めよう。」
「御屋形様が御隠居様に刺客を差し向ける可能性もありますが?」
「そうなれば氏真の駿河での人望が地に落るし、義直に氏真討伐の大義名分を与える事にもなる、そうそう仕掛けることは出来ないだろう。」
「義直が御屋形様討伐の大義名分を得る為、自分で御隠居様を殺しておいて、御屋形様がやったと自作自演していると言いだすかもしれません。」
「確かにその恐れはあるが、近習たちには十分に言い聞かせている、何かあればあいつらが証言するだろう。」
「そこまでなされていたら、近習衆も死に物狂いて御隠居様を御守りするでしょう。」
「うん? おおそうか! 近習衆に取ったら『お前達では守りきれないだろう、俺っちより氏真に着いたのだろう』と言われているようなものか。」
「左様でございます。近習衆は御隠居様を御守りするのが御役目、その者に死んだ後の事を託すなど、力不足で信用していない、敵に内通しているだろうから信用していないと言っているようなものです。」
「これはぬかったな、後で話しておこう。」
「それと白拍子・歩き巫女・甲賀衆の集めてきた話では、公方様と三好家の緊張が高まっております。」
「それはどういうことだ?」
「政所執事・伊勢貞孝が失脚し、挙兵により伊勢氏が滅亡した事で、公方様寄りの摂津晴門様が政所執事になられました。長慶様を失い後ろ盾のない若き義継さまが当主となられた三好家で、後見人争い主導権争いが起こっております。」
「三好家内が争いが起こる事で、公方への堪忍袋が切れかかっていると言うのか?」
「左様でございます、このままでは三好家が公方様を攻めると思われます。」
「それは公方様に味方して三好と雌雄を決すると言う事か?」
「いえ、天運を待ちたいと思っております。」
「どういうことだ?」
「以前にも申し上げた事でございます。」
「まさか義直を公方にすると言うのか!」
「今川家の格式は、『御所(足利将軍家)が絶えれば吉良が継ぎ、吉良が絶えれば今川が継ぐ』とまで庶民に言われております。足利将軍家の血脈が絶えた際には、足利宗家の家督を継承することが許されている、という説が巷にはあるほどでございます。」
「しかし公方には多くの連枝が存在している、断絶することは考えられぬ!」
「義直様は、公方様の姉君を正室に迎えております。御隠居様の実子で7カ国の太守を務めておられるのです、可能性はあるのではありませんか?」
「公方には仏門に入ったとはいえ2人の弟がいる、阿波にも足利義冬・義親・義助・義任の親子がいる、幾らなんでも無理であろう。」
「三好が公方様を攻め殺すのに成功した場合、2人の弟君を見逃すとは思えません。」
「だがさっきも言ったように、阿波にはずっと匿っている義冬親子がいるではないか?」
「阿波公方を担いで今川家と争うのと、義直を担いで京を境に天下を2分するのとどちらを選びましょうか?」
「なに?!」
「それに義直様と、三好家の義継様は義兄弟となられます。」
「だから公方を見殺しにしろと言うのだな?」
「御隠居様が天下を望まれるなら、公方様は邪魔でございます。しかし御隠居様が手を汚される必要は御座いません、汚いことは三好家にやらせればよいのでございます。」
「そういうことか。」
「はい。」
今川義元は義直に成り代わり、公方の住む二条御所武衛陣に御礼言上に向かった。
『二条御所武衛陣』
「治部大輔よくぞ参った。」
「は!」
「義直の調子はどうだ?」
「風邪でございますれば、それほど心配は御座いませんが、公方様のうつすようなことがならないと自重させました。」
「そうか、気をつけてやってくれ。それと治部大輔のことだが、氏真は御相伴衆・義直も侍所頭人となっておる。隠居したとはいえ治部大輔を無役と言う訳にはいかん、御相伴衆に任じる。」
「有り難き幸せにございます。」
「義直の体調がすぐれぬ場合は、治部大輔が軍を率いて幕府の役に立って貰わなければならんぞ。」
「承りまして御座います。」
摂津晴門:足利義輝は義理の従兄弟・伊勢貞孝に代わって新たな政所執事として起用されている。
「義直様、侍所頭人就任おめでとうございます。」
「全て母上様の御蔭でございます。」
「先日遠江・三河・尾張・美濃・近江・若狭の守護と、北伊勢の分郡守護に任じられたばかりでの大出世、駿河からの刺客にはくれぐれもお気をつけて下さいませ。」
「はい、甲賀衆には伊賀衆の調略を進めてもらっています。」
「私も松平家に仕える服部という者を使って調略を進めています。」
「有難うございます母上様。」
「しばらくは京へ行かれるのは御止め下さい。」
「しかし御礼言上に行かねばなりません。」
「それは御隠居様に御願い致しました。」
「そこまで気を使わねばなりませんか。」
「はい、白拍子・歩き巫女の情報も、甲賀衆の情報も危険を知らせております。」
「承りました。」
翌日『近江・観音寺城・本丸』
「御隠居様、後の事宜しくお願いいたします。」
「任せておけ、ここまで来たら氏真よりも義直の方が今川家の当主に相応しいが、わざわざ武田や北条と波風を立てる事もない。公方も今川の分割を認めた、ここは俺っちが間に入って納めよう。」
「御屋形様が御隠居様に刺客を差し向ける可能性もありますが?」
「そうなれば氏真の駿河での人望が地に落るし、義直に氏真討伐の大義名分を与える事にもなる、そうそう仕掛けることは出来ないだろう。」
「義直が御屋形様討伐の大義名分を得る為、自分で御隠居様を殺しておいて、御屋形様がやったと自作自演していると言いだすかもしれません。」
「確かにその恐れはあるが、近習たちには十分に言い聞かせている、何かあればあいつらが証言するだろう。」
「そこまでなされていたら、近習衆も死に物狂いて御隠居様を御守りするでしょう。」
「うん? おおそうか! 近習衆に取ったら『お前達では守りきれないだろう、俺っちより氏真に着いたのだろう』と言われているようなものか。」
「左様でございます。近習衆は御隠居様を御守りするのが御役目、その者に死んだ後の事を託すなど、力不足で信用していない、敵に内通しているだろうから信用していないと言っているようなものです。」
「これはぬかったな、後で話しておこう。」
「それと白拍子・歩き巫女・甲賀衆の集めてきた話では、公方様と三好家の緊張が高まっております。」
「それはどういうことだ?」
「政所執事・伊勢貞孝が失脚し、挙兵により伊勢氏が滅亡した事で、公方様寄りの摂津晴門様が政所執事になられました。長慶様を失い後ろ盾のない若き義継さまが当主となられた三好家で、後見人争い主導権争いが起こっております。」
「三好家内が争いが起こる事で、公方への堪忍袋が切れかかっていると言うのか?」
「左様でございます、このままでは三好家が公方様を攻めると思われます。」
「それは公方様に味方して三好と雌雄を決すると言う事か?」
「いえ、天運を待ちたいと思っております。」
「どういうことだ?」
「以前にも申し上げた事でございます。」
「まさか義直を公方にすると言うのか!」
「今川家の格式は、『御所(足利将軍家)が絶えれば吉良が継ぎ、吉良が絶えれば今川が継ぐ』とまで庶民に言われております。足利将軍家の血脈が絶えた際には、足利宗家の家督を継承することが許されている、という説が巷にはあるほどでございます。」
「しかし公方には多くの連枝が存在している、断絶することは考えられぬ!」
「義直様は、公方様の姉君を正室に迎えております。御隠居様の実子で7カ国の太守を務めておられるのです、可能性はあるのではありませんか?」
「公方には仏門に入ったとはいえ2人の弟がいる、阿波にも足利義冬・義親・義助・義任の親子がいる、幾らなんでも無理であろう。」
「三好が公方様を攻め殺すのに成功した場合、2人の弟君を見逃すとは思えません。」
「だがさっきも言ったように、阿波にはずっと匿っている義冬親子がいるではないか?」
「阿波公方を担いで今川家と争うのと、義直を担いで京を境に天下を2分するのとどちらを選びましょうか?」
「なに?!」
「それに義直様と、三好家の義継様は義兄弟となられます。」
「だから公方を見殺しにしろと言うのだな?」
「御隠居様が天下を望まれるなら、公方様は邪魔でございます。しかし御隠居様が手を汚される必要は御座いません、汚いことは三好家にやらせればよいのでございます。」
「そういうことか。」
「はい。」
今川義元は義直に成り代わり、公方の住む二条御所武衛陣に御礼言上に向かった。
『二条御所武衛陣』
「治部大輔よくぞ参った。」
「は!」
「義直の調子はどうだ?」
「風邪でございますれば、それほど心配は御座いませんが、公方様のうつすようなことがならないと自重させました。」
「そうか、気をつけてやってくれ。それと治部大輔のことだが、氏真は御相伴衆・義直も侍所頭人となっておる。隠居したとはいえ治部大輔を無役と言う訳にはいかん、御相伴衆に任じる。」
「有り難き幸せにございます。」
「義直の体調がすぐれぬ場合は、治部大輔が軍を率いて幕府の役に立って貰わなければならんぞ。」
「承りまして御座います。」
摂津晴門:足利義輝は義理の従兄弟・伊勢貞孝に代わって新たな政所執事として起用されている。
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