女将軍 井伊直虎

克全

第43話美濃侵攻

『岩倉城』

「義直様、一大事でございます。」

「どうなされました、母上様?」

「美濃の一色義龍が亡くなったと知らせがありました。」

「なんと!」

「義直様は、どうなされたいですか?」

「直ぐに出陣の支度をさせます!」

美濃の一色義龍が死んだ。蝮と恐れられた実父・斎藤道三を殺し、貫高制に基づいた安堵状を発給して、長年の内乱で混乱した所領問題を処理する内政の才の有る人だった。宿老による合議制も取り入れ、室町時代の体制を生かしながら、戦争に明け暮れていた道三の下では十分実現し得なかった守護領国制を改め、戦国大名としての基礎を築いた人だった。

足利将軍家朝廷にも働きかけ、京都の将軍家足利義輝より一色氏を称することを許され、美濃守護代家斎藤より一色に改名し、永禄元年(1558年)に治部大輔に任官し、永禄2年(1559年)には足利幕府相伴衆に列せられ戦国大名としての大義名分を得た。さらに南近江の六角義賢と同盟を結び、北近江の浅井久政とも戦った。永禄4年(1561年)、左京大夫(左京兆)に任じられていた。

これだけの事を織田信長の執拗な攻撃を撃退しながら成し遂げた名君が死んだのだ!

着々と美濃と北伊勢の調略を進めていた義直は、永禄4年(1561年)6月25日に西美濃を征服しようと美濃国八神城主・毛利広盛の案内で、本郷村より長良川を船橋をかけて渡り森部村に侵攻した。

義龍の後を継いだ義興は、長井甲斐守衛安と日比野下野守景直を大将として、墨俣にあった砦から森部というところまで出撃してきた。

一色軍が急遽集めた兵は6000人で、義直軍1万5000人との合戦となった。墨俣砦から押し寄せてきた一色軍を、義直は味方を三手に分けて挟み撃ちにした。

「今だ! 敵を泥地に誘い込んだぞ、総掛りにせよ!」

義直軍は白拍子と歩き巫女達に調べさせていた地形を有効に使い、囮兵が一色軍を罠に誘い込んだ。

「遠巻きに矢を射かけよ!」

「泥地を抜け出した者は総掛りで討ち取れ!」

「命の惜しい者は降伏せよ!」

「義直様はお前たちを家臣に迎えるぞ!」

「命を大切にして降伏せよ!」

「義直様に仕える者は助けるぞ!」

多くの雑兵達が降伏して来た、そしてこの戦いで新たに義直に仕えた者達が大手柄を挙げた。同じ南朝の流れをくむ津島湊出身者が獅子奮迅の活躍をしたのだ。

服部平左衛門康信が長井甲斐守衛安を討ち取り。
恒川久蔵が日比野下野守景直を討ち取った。
前田慶次利益は、日比野下野守景直の家臣で「首切り足立」と恐れられていた猛将・足立六兵衛を討ち取った

一色軍の降伏兵を受け入れた義直軍は、勢いのまま一色方墨俣砦(岐阜県安八郡安八町)に迫った。一色降伏兵の手引きで墨俣砦に入ることが出来た義直軍は、ほぼ無血で易々と砦を占領することが出来た。

義直軍の侵攻はそこでとどまらなかった。以前から誼を通じていた美濃国加賀野井城主・加賀井重宗は、これを期に表立って義直に臣従を誓った。

竹ヶ鼻城に兵を派遣して降伏を打診したが、今川勢力圏に孤立することになった城主・不破源六友綱は、今川家に降伏臣従する事を誓った。これで支城・氷取城を守る弟・不破大炊頭も降伏臣従する事になった。

牧村城の牧村牛之助政倫は、山内一豊を助けた縁もあり、一豊の調略に応じて義直に降伏臣従した。

福束城の丸毛長照、今尾城の中島重行も情勢を見て降伏臣従にやって来た。

大勝利を修めた義直は、美濃全域の国衆・地侍に調略の使者を送った。美濃東端・信濃・三河愛知県境の恵那郡を押さえる遠山一族は、信秀の時代から婚姻関係を結んで織田方となっていたが、信長が京に落ちて以降は織田信広・信包・信治・信興を通じて調略を進めていた。

西美濃山間部は、多良谷の高木貞久、徳山谷の徳山則秀、池田郡市橋の市橋長利、同郡本郷の国枝古泰なども調略が進んでいる。

一色家の重鎮、関城主・長井道利は別にして、西美濃の有力武将で西美濃三人衆と称される、大垣城主・氏家直元、北方城主・安藤守就、曽根城主・稲葉良道に加え、竹中半兵衛重門らにも調略の使者を送った。

揖斐川を挟んで1万5000兵の今川軍が駐屯することになった。それにより大垣城主・氏家直元は大きな圧迫を受けることになった。間に小野城や長沢城などの支城はあるものの、いつ攻め滅ぼされるか分からない状態となった。

大垣城 氏家直元
小野城 大垣城主・氏家直元の家臣・横幕帯刀信兼の城
若森城 宮川吉左工門尉安定が三千貫
直江城 種田彦七郎(丸毛三郎兵衛長隆)・種田助之丞正元の弟
今宿城 種田助之丞正元が五百貫
長沢城 種田氏
三塚城 種田信濃守兼久・種田助之丞正元の兄

『墨俣城』

「母上様、どういたしましょう?」

「義直様はどうしたいのですか?」

「揖斐川左岸を全て攻略するのがいいと思っております。」

「なぜそう思われるのですか?」

「左岸を全て攻略してからでないと、背後を襲われる危険があります。僅かでも負け戦になると御屋形様が五月蝿く言ってくる可能性があるので、墨俣城を中心に恵那郡・土岐郡・可児郡・加茂郡の調略と侵攻を優先したいと思っています。」

「それがいいと思いますよ。」

「ではそのように指示してきます。」

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