女将軍 井伊直虎

克全

第42話南朝

『勝幡城』

「母上様どういたしましょう?」

「義直様はどうしたいのですか?」

「今の千種家の当主・千種忠基殿は、六角家の重臣・後藤但馬守賢豊の弟なのですよね?」

「そうですよ、1555年に六角義賢が北伊勢に攻め込んだ際、先代当主・千種忠治殿は六角軍を撃退したのです。ですがその時男子のいなかった忠治殿は、和議の条件として忠基殿を養嗣子に迎えられたのです。」

「でもその後で実子がお産まれになられたのですよね?」

「そうです、そのため養子解消を恐れた忠基殿は、事もあろうに養父の忠治殿と実子を追放処分にされたのです。」

「その後御味方を募って城を取り返そうとなされたのですよね。」

「よく御存じですね、萱生城主・春日部大膳殿や星川城主・春日部若狭守など、縁戚の力を借りて城を取り返そうとなされましたが、武運拙く敗れてしまわれました。」

「母上様が、千種忠治殿親子を匿われたと聞いて調べて貰いました、そうなると千種忠治殿を柱に北伊勢を調略する心算なのですね?」

「母はそれも1つの手だと思って準備しましたが、義直様は家臣が提案する中から最もよい策を取り入れられるべきなのですよ。」

「承りました、しかし母上様はそれが1番よい策と思われておられるのですね?」

「南朝の繋がりを大切にすべきだと思っています、特に伊勢は『伊勢3家』と言われる南伊勢の北畠家、安濃郡長野を拠点とする長野家、鈴鹿郡関・亀山を拠点とする関家に、三重郡千種城主の千種家、河芸郡神戸城主の神戸家、朝明郡萱生城主の春日部家の3家を併せて6人衆と言うのです。」

「千種忠治殿親子を助ければ、2人までは味方に付ける事が出来るのですね。」

「でもそうなると六角家を敵に回すことになります、その為にはどうすべきと義直様はかんがえられますか?」

「忠治殿に六角家の気付かれないように調略に入って頂く事でしょうか。」

「そうですね、それがよいと思います。」

義直と直虎は快進撃をここで1時止めた、合戦続きで疲弊した今川家国衆・地侍を一旦本国に帰したのだ。

だが今川義元は今川館までは帰らなかった。自ら田畑を耕す必要の無い武者を側近に残して、清州城に駐屯することにしたのだ。

義直・直虎・直親親子も勝幡城に残って、氏真からの暗殺の危険を回避することにした。義直・直虎・直親の3人は、近隣の南朝縁の大名・国衆・地侍に手紙を書いて、味方に引き入れようとした。井伊谷には直平が戻って、本貫地の政治と新たに手に入れた湊の整備に全力を尽くす事にした。

松平元康は、今回の一連の戦いの功績で岡崎城を返還してもらえる事になった。但し16松平家は、それぞれ独自に義直に従う事になった。その為に元康が松平家を統合する事も、三河の旗頭なる事も出来なかった。


『那古屋城』

「下方左近貞清殿、よくぞ来てくれた、貴君のような勇者が仕えてくれることになって心から嬉しく思う。」

「私のような者を家臣に迎えて頂き感謝の言葉も御座いません。」

「爺からも母上からも、貞清殿が小豆坂七本槍に数えられる勇者であり、萱津の戦いにおいても織田信友の家老・川尻左馬介を一騎打ちで討ち取られたと聞き及んでおります。これからは私の為に、その武勇を振るって頂きたい。」

「重ね重ねのお褒め感謝いたします、殿のお力になれるように粉骨砕身働かせて頂きます。」

「頼み置くぞ。」

「森可成殿、よくぞ来てくれました、あなたのような勇者が義直に仕えてくれる事、嬉しく思います。」

「は、有り難き御言葉恐悦至極にございます。」

「義直よく覚えておきなさい、可成殿は織田信友が謀反を起こし斯波義統殿を殺した際に、清洲城に攻め込み信友を討ち取り首級を挙げられた勇者なのです。」

「おおお、それは見事の働きですね、忠勇兼備の名将なのですね。」

「そのように褒めて頂くと赤面いたします。」

「それだけではりませんよ、長良川の戦いにおいては、信長殿を無事に逃がすために斎藤方の千石又一と激しく渡り合い肘を負傷するも、無事織田全軍を退却に導き信長殿を守り抜いたのです。」

「なんともすごい働きですね!」

「いや、まあ、その、そのようにお褒め頂くと赤面いたします。」

「さらにです、浮野の戦いにおいて先陣を務められ、当初劣勢であった信長軍を、獅子奮迅の活躍で勝利を導かれたのです。」

「本当に頼もしい事ですね、何度も申すが可成殿が味方に加わってくれて心から頼もしく思う、これからは今川家の為に働いて欲しい。」

義直・直虎・直親は尾張衆の心を掴むために色々と動いた。過去の武勇の話も調べて褒める事を行い、1人1人の好みを調べ上げてそれに合わせた会話を心がけ、これからの功名によってはそれを与えるように話して、将来に望みを持たせる様にもした。

特に最後の最後まで信長に付き従った忠義者の心を掴むことに腐心し、駿河の御屋形様と敵対した際には、親類衆に次ぐ譜代衆として立身できると匂わせるように努めた。

「ここまで武勇を御認め頂ければ武士冥利に尽きます、今川家の為義直様の為、力の限り働かせて頂きます。」

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