女将軍 井伊直虎

克全

第32話決戦2

『田幡城跡』

(直虎様、少々拙いことになっておる。)

(どうなされました大爺様?)

(織田の夜討で雑兵どもが狼狽しておる、このままでは闇に紛れて逃げる者が出かねん。もしそんなことになれば、味方に友崩れが起こるかもしれん。)

(こちらも迂回して、信長勢の背後から夜討奇襲逆撃してはどうでしょう?)

(この闇の中で正確に信長勢の背後を突けるか?)

(私たちにお任せください、闇の中でも見通す事が出来ますし、この辺りの地形も覚えております。)

城跡に残っていた、ふじ配下の白拍子が太鼓判をを押した。

(分かりました、道案内は任せましょう。)

(では夜討は爺に任せて頂こう、年の功で戦慣れしておるからな。)

(分かりました、兵の差配は大爺様に任せます。)

井伊直平は、井伊家一門譜代を指揮して、信長が攻めている反対から密かに出陣して行った。

降伏臣従した尾張勢が守る、田幡城跡の最外縁の攻防は激烈を極めた。信長を裏切った尾張勢に降伏する事は出来ないのだ、例え逃げたとしても行くところなどない。武将は死に物狂いで槍を振るったし、槍足軽たちも1隊は柵を支えにして長柄を固定して槍衾の陣形を維持していた。もう1隊の槍隊は必至で長柄を上下に動かし、信長勢の兜を叩いて脳震盪を起こさそうとした。2隊の長柄隊が交互の役目を変わり、休息を入れながら信長勢を防ぎ続けた。

なかなか第1防衛線を突破できない信長は、犠牲にを厭わず1点集中の猛攻を命じた。その犠牲が功をそうし、何とか田幡城跡の最外縁に設けられた柵地帯を突破した。

「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ、我こそは前田慶次利益なり!」

防衛線を突破した信長勢だが、名のある武将を前田慶次に討ち取られ、名乗りを上げれれてしまった。しかし損害を恐れず攻め立てる信長勢は、次々と防衛線内に入り込んで行った。

しかし関口親永の指揮は巧みで、素早く第2防衛線から自らの手勢を押し出した。それにより信長勢の鋭鋒を挫き、無事な尾張降伏勢を第2防衛線に収容し、ガッチリと第2防衛線を守った。

信長勢は互いの矢玉が飛び交う中で、関口親永が守る第2の柵地帯を突破しようとした。しかし第2防衛線は、尾張降伏勢が収容された事で厚みを増していた。そのため信長勢は、第2防衛線を突破することが出来なかった。


『田幡城跡 城外』

「殿、それがしにお任せください!」

「危険だぞ。」

「日頃大口を叩いているのです、戦場では働かせて頂きます。」

「左様か、では長柄足軽を5隊預ける。」

柴田勝家は喜び勇んで信長の前を辞し、最前線に向かっていった。

「殿、宜しいのですか?」

村井貞勝が5隊もの長柄隊を預けた事を危惧した。それが当然の反応だろう、柴田勝家は1度刃を向けたのだ。だが尾張でも有数の猛将であることも確かで、その力が義直に向かうのなら、この膠着状態を動かす事が出来るかもしれなかった。

「可成を呼べ。」

信長は村井貞勝の問いに答える事無く森可成を呼ばせ、そして何事か指示を出していた。

柴田勝家は、伝説上では「瓶割り柴田」と言われる漢で、勇猛なことこの上なかった。自らの手勢と5つの長柄足軽隊を駆使して猛攻を仕掛けた。

関口親永は巧みな指揮で柴田勝家の猛攻を凌いでいたが、攻防地点から離れた場所の将兵に油断が出ていた。そこを森可成が、信長から預かった徒武者隊を率いて攻め込んだ。敵の首を討ち取る事を禁じ、遮二無二奥深くに攻め込む錐のような攻撃だった。

柴田勝家の猛攻を凌いでいた関口親永配下の雑兵たちも、後ろで戦いの声が聞こえて来たことで狼狽えてしまった。その隙を柴田勝家は見逃さず、総掛りを命じて第2防衛線を突破した。

「俺は前田慶次利益、貴様は何者だ?!」

「儂は森三左衛門可成! 貴様のような青二才の相手をする気はないわ!」

防衛線を突破してきた信長勢を、いち早く前田慶次は迎え討った。前田慶次特に立派な鎧兜を身に着けた武者に素早く掛かっていったが、将兵を指揮して更に突破口を広げたい森可成は相手をしたくなかった。だが前田慶次は適当にあしらえる弱兵では無く、全力を込めての戦うしかなかった。しかし森可成の子飼い手勢が突破口を広げたことで、義直勢は動揺し柴田勝家勢の戦線突破も許してしまった。

第3防衛線を任されていた松平元康も関口親永を真似て、素早く第3防衛線から自らの手勢を押し出した。そして柴田勝家・森可成の鋭鋒を挫いた上で、無事に関口親永勢・尾張降伏勢を第3防衛線に収容し、ガッチリと第3防衛線を守った。

ここが勝機と見た信長は、義直勢の第3防衛線を突破し、義直の首を討ち取る為、手元に残していた後詰を投入した。

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