女将軍 井伊直虎
第29話調略勝負
『大秋城』
「義直様、日比津城の野尻掃部と栗山城を預かる家老・野尻藤松が、降伏臣従するとの事でございます。」
「おみ、よくぞやってくれた、これで一気に那古屋城を攻める事が出来る。母上様、何か問題はありますか?」
「義直様はどう思われるのですか?」
「稲葉地城の津田小藤次が討って出れないように、稲葉地城に抑えほ兵を置けば大丈夫と考えます。それとも稲葉地城から先に攻めるべきですか?」
「まずは自分でお考えなされませ。」
「そうですね、その方がいいですね、信長がどう出るかを考えるのが大切ですね。私が那古屋城を攻めたら、信長は味方の日置城と山崎城が背後にいますから、安心して私に攻め掛かってこれますね。ですが私が稲葉地城攻めたら、援軍出でてくる信長は、今川家の大秋城・米野城・日比津城城・岩塚城に囲まれて私と戦う事になりますね。」
「そうなりますね、だとしたら義直様はどうなさるべきなのですか。」
「全力で稲葉地城攻めます。信長が援軍に来れば、稲葉地城に抑えの兵を残して信長と戦います。信長が稲葉地城を見捨てたら、それを元に更なる調略を進めます。」
「そうですね、それがよいでしょう。」
「では全軍に稲葉地城攻めを指示してきます。」
『日置城外 織田信長陣地』
「殿! どうなされるお心算ですか?」
「尾張・美濃・伊勢・三河に触れを出せ。」
「何をなさるお心算ですか?!」
「今川義元を、垓下の項羽のように古渡城に追い詰めた。義元の首を取った者には、思うままの恩賞を与えるとな。」
「稲葉地城を見捨てられるのですか!」
「いい加減になされよ柴田殿! 義直の策に乗って死地に進めて言われるのか?」
「虎穴にいらずんば虎子を得ずとも言う、ここは決戦すべきだ!」
柴田勝家の愚かな進言に、森可成が怒りもあらわに割って入る。
信長は怒りに震えていたが、ここで勝家を叩きのめせば柴田・佐久間両家が離反するかもしれない。両家が離反すれば、それに同調して離反する国衆・地侍が出てくるだろう。今の信長がその状態になれば、再起不能となってしまうだろう。どれだけ腹立たしくても、ここは勝家への怒りを飲み込むほかない。どれほど腹立たしくても、愚かな勝家に言って聞かせる他ないのだ。
「今川の大将は誰だ!」
「それはもちろん義元です。」
「義元はどこにいる。」
「古渡城です。」
「では古渡城に追い詰めた義元を放って、稲葉地城の義直に向かっていくのは愚かではないのか?!」
「それは・・・・・」
「もう少し考えてから話せ!」
「しかし殿、稲葉地城に援軍を出さなければ影響が出るのは確かですが?」
河尻秀隆は本気で国衆の動向を心配する。
「義元を追い詰めていると言って、国衆・地侍の兵力を集める使者を出すのだ。古渡城を優先するのは誰でもわかる、それに義直にも儂が古渡城攻めを優先したことは直ぐに伝わる。駿河に残る氏真に弱みを見せる訳にはいかない義直は、必ず吉本を助けに来る。」
「なるほど! 駿河・遠江の国衆・地侍は、義元を救援するように要求するでしょうな。」
「集まって来る将兵に古渡城を囲ませろ、我らは義直を迎え討つ!」
『稲葉地城』
「義直様・直虎様、将兵共の中に、義直様が御隠居様をわざと見殺しにするようだと噂する者がおります」
駿河の地侍から、義元援軍の直訴を受けた井伊直平が、その事を秘密にして状況報告にやって来た。
「信長か御屋形様が流された噂でしょうね、白拍子と歩き巫女たちに打ち消させます。」
「母上様、どうやって打ち消されるのですか?」
「御隠居様は、5500兵で古渡城に籠られておられます。同数の信長に攻め落とされる事などありません。御隠居様が沓掛城に逃げ込まれた時に、命惜しさに見捨てようとした卑怯者・臆病者が、己の罪を誤魔化そうとして言い募っていると、逆の噂を流します。」
「それで納まりますでしょうか?」
「更に噂を流すのです。織田に内通しているの者が、稲葉地城の囲みを解かそうとして嘘を広めている。今川の不利になり、織田が有利になるような噂を流す内通者は、斬首に処されると噂を広めます。」
「命じる訳では無いのですね?」
「命じると状況が悪くなった場合に問題が出ます、あくまでも噂として広めていきます。」
「それでは義直様・直虎様、援軍には向かわず稲葉地城の包囲を続けるのですな?」
「そうです。」
翌日瞬く間に噂が広がった。稲葉地城の包囲を解いて、古渡城の援軍に行くよう言い募る者は、織田の内通者だと。同時にその者は、沓掛城の救援に行かなかった卑怯な裏切り者達、もしくはそのころからの内通者だと。確かに義直や井伊家の策に異議を唱えるのは、氏真派の地侍で沓掛城の救援に行かなかった者だった。
噂にどんどん尾鰭がついて、桶狭間で織田に奇襲されたのは、内通者が御隠居様の居場所を教えたせいだとまで育った。更にそいつらは、沓掛城に御隠居様がおられると井伊家の者が伝えに行っても、ご隠居様を殺すために援軍に行かなかったとまで噂は育った。遂には、今度も義直様を奇襲する為に、罠のある場所に義直様を追いこもうとしているとまで噂は育っていった。
古渡城への援軍を強く求めていた地侍達は、取り返しがつかないほど孤立して行った、いやそれどころか、臆病者・卑怯者・内通者ではないと命懸けで忠誠を示さないと、斬首されると言う噂まで流れ出した。そこまで噂が育ち広まった頃に、稲葉地城の総攻撃が命じられた。
命懸けで忠誠を示すしかない氏真派の地侍達は、1番槍・1番首を目指して稲葉地城に攻め込んだ。彼れが死傷を恐れず、遮二無二前へ前へと槍を構えて突進したお陰で、一昼夜で稲葉地城は落城した。
稲葉地城を攻め落とした義直は、軍を返して那古屋城の近くにある廃城、押切城を修築して拠点とする動きを見せた。押切城の修築が完成すれば、那古屋城を攻め落とす格好の拠点になるだけでなく、信長を迎え討つ陣地ともなる。いやそれだけではなく、周辺の国衆・地侍に圧力をかける調略の拠点にするにも格好の場所だった。
「義直様、日比津城の野尻掃部と栗山城を預かる家老・野尻藤松が、降伏臣従するとの事でございます。」
「おみ、よくぞやってくれた、これで一気に那古屋城を攻める事が出来る。母上様、何か問題はありますか?」
「義直様はどう思われるのですか?」
「稲葉地城の津田小藤次が討って出れないように、稲葉地城に抑えほ兵を置けば大丈夫と考えます。それとも稲葉地城から先に攻めるべきですか?」
「まずは自分でお考えなされませ。」
「そうですね、その方がいいですね、信長がどう出るかを考えるのが大切ですね。私が那古屋城を攻めたら、信長は味方の日置城と山崎城が背後にいますから、安心して私に攻め掛かってこれますね。ですが私が稲葉地城攻めたら、援軍出でてくる信長は、今川家の大秋城・米野城・日比津城城・岩塚城に囲まれて私と戦う事になりますね。」
「そうなりますね、だとしたら義直様はどうなさるべきなのですか。」
「全力で稲葉地城攻めます。信長が援軍に来れば、稲葉地城に抑えの兵を残して信長と戦います。信長が稲葉地城を見捨てたら、それを元に更なる調略を進めます。」
「そうですね、それがよいでしょう。」
「では全軍に稲葉地城攻めを指示してきます。」
『日置城外 織田信長陣地』
「殿! どうなされるお心算ですか?」
「尾張・美濃・伊勢・三河に触れを出せ。」
「何をなさるお心算ですか?!」
「今川義元を、垓下の項羽のように古渡城に追い詰めた。義元の首を取った者には、思うままの恩賞を与えるとな。」
「稲葉地城を見捨てられるのですか!」
「いい加減になされよ柴田殿! 義直の策に乗って死地に進めて言われるのか?」
「虎穴にいらずんば虎子を得ずとも言う、ここは決戦すべきだ!」
柴田勝家の愚かな進言に、森可成が怒りもあらわに割って入る。
信長は怒りに震えていたが、ここで勝家を叩きのめせば柴田・佐久間両家が離反するかもしれない。両家が離反すれば、それに同調して離反する国衆・地侍が出てくるだろう。今の信長がその状態になれば、再起不能となってしまうだろう。どれだけ腹立たしくても、ここは勝家への怒りを飲み込むほかない。どれほど腹立たしくても、愚かな勝家に言って聞かせる他ないのだ。
「今川の大将は誰だ!」
「それはもちろん義元です。」
「義元はどこにいる。」
「古渡城です。」
「では古渡城に追い詰めた義元を放って、稲葉地城の義直に向かっていくのは愚かではないのか?!」
「それは・・・・・」
「もう少し考えてから話せ!」
「しかし殿、稲葉地城に援軍を出さなければ影響が出るのは確かですが?」
河尻秀隆は本気で国衆の動向を心配する。
「義元を追い詰めていると言って、国衆・地侍の兵力を集める使者を出すのだ。古渡城を優先するのは誰でもわかる、それに義直にも儂が古渡城攻めを優先したことは直ぐに伝わる。駿河に残る氏真に弱みを見せる訳にはいかない義直は、必ず吉本を助けに来る。」
「なるほど! 駿河・遠江の国衆・地侍は、義元を救援するように要求するでしょうな。」
「集まって来る将兵に古渡城を囲ませろ、我らは義直を迎え討つ!」
『稲葉地城』
「義直様・直虎様、将兵共の中に、義直様が御隠居様をわざと見殺しにするようだと噂する者がおります」
駿河の地侍から、義元援軍の直訴を受けた井伊直平が、その事を秘密にして状況報告にやって来た。
「信長か御屋形様が流された噂でしょうね、白拍子と歩き巫女たちに打ち消させます。」
「母上様、どうやって打ち消されるのですか?」
「御隠居様は、5500兵で古渡城に籠られておられます。同数の信長に攻め落とされる事などありません。御隠居様が沓掛城に逃げ込まれた時に、命惜しさに見捨てようとした卑怯者・臆病者が、己の罪を誤魔化そうとして言い募っていると、逆の噂を流します。」
「それで納まりますでしょうか?」
「更に噂を流すのです。織田に内通しているの者が、稲葉地城の囲みを解かそうとして嘘を広めている。今川の不利になり、織田が有利になるような噂を流す内通者は、斬首に処されると噂を広めます。」
「命じる訳では無いのですね?」
「命じると状況が悪くなった場合に問題が出ます、あくまでも噂として広めていきます。」
「それでは義直様・直虎様、援軍には向かわず稲葉地城の包囲を続けるのですな?」
「そうです。」
翌日瞬く間に噂が広がった。稲葉地城の包囲を解いて、古渡城の援軍に行くよう言い募る者は、織田の内通者だと。同時にその者は、沓掛城の救援に行かなかった卑怯な裏切り者達、もしくはそのころからの内通者だと。確かに義直や井伊家の策に異議を唱えるのは、氏真派の地侍で沓掛城の救援に行かなかった者だった。
噂にどんどん尾鰭がついて、桶狭間で織田に奇襲されたのは、内通者が御隠居様の居場所を教えたせいだとまで育った。更にそいつらは、沓掛城に御隠居様がおられると井伊家の者が伝えに行っても、ご隠居様を殺すために援軍に行かなかったとまで噂は育った。遂には、今度も義直様を奇襲する為に、罠のある場所に義直様を追いこもうとしているとまで噂は育っていった。
古渡城への援軍を強く求めていた地侍達は、取り返しがつかないほど孤立して行った、いやそれどころか、臆病者・卑怯者・内通者ではないと命懸けで忠誠を示さないと、斬首されると言う噂まで流れ出した。そこまで噂が育ち広まった頃に、稲葉地城の総攻撃が命じられた。
命懸けで忠誠を示すしかない氏真派の地侍達は、1番槍・1番首を目指して稲葉地城に攻め込んだ。彼れが死傷を恐れず、遮二無二前へ前へと槍を構えて突進したお陰で、一昼夜で稲葉地城は落城した。
稲葉地城を攻め落とした義直は、軍を返して那古屋城の近くにある廃城、押切城を修築して拠点とする動きを見せた。押切城の修築が完成すれば、那古屋城を攻め落とす格好の拠点になるだけでなく、信長を迎え討つ陣地ともなる。いやそれだけではなく、周辺の国衆・地侍に圧力をかける調略の拠点にするにも格好の場所だった。
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