逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

第98話

「自由に狩りなさい。
今日は貸し切りにしていますから、遠慮はいりませんよ」

私は優しくタマやムク達に話しかけます。
タマとムク達がうれしそうに森の中に駆けて行きます。
久しぶりの狩りに興奮しているのでしょう、遠吠えで合図しながら獲物を楽しそうに追っています。
その喜びが絆を通して私にも伝わり、心が浮き立ちます。

王都に来て直ぐに、王国に狩猟願を出しました。
普通の狩猟場はもちろん、貴族士族に解放されている魔境も、王家の占有する魔境も貸して欲しいと願いを出していたのです。

デビルイン魔境から魔獣の肉は届けられますが、何時その輸送を襲われるか分かりません。
私達が王都にいるのなら、王都でも魔獣肉を確保する方法を確立しておかないといけません。
商人から購入する方が簡単ではありますが、誰かが権力を使って止めてしまう可能性もあれば、毒を盛られる危険もあります。
実際に国王と王太子が毒を盛られ、後遺症で乱心しているのですから、口に入れるモノは自分達で確保するのが一番なのです。

魔境の狩りが認められるのが一番なのですが、先に認められたのは普通の森でしたが、そのかわり貸し切りが認められました。
なので誰に憚ることなくタマとムク達を自由にさせてあげました。
もしかしたら、無意識にタマとムク達の願いが伝わっていたのかもしれません。
もっと言えば、タマとムク達の影響で、私自身が自由に駆け回りたいのかもしれませんが、証明する方法はありません。

ですが、獲物を追うタマとムク達の興奮と喜びが伝わってきます。
私も同じように愉しんでいます。
それだけならよかったのですが、タマが獲物に牙を突き立てた時に感じた興奮と喜びが、私にも興奮と喜びを与えます。
いえ、自分自身が喜んでいるのです!

正直恐ろしいです!
殺す事に喜びを感じることが怖いです!
理性で抑え込めるとは思っていますが、殺人狂になってしまうかもしれないという恐怖は、心の奥底に不安と共にあります。
ちゃんと抑え込める事、魔獣の本能と人間の理性は共存できる事、それを早く確認しなければいけません!

少なくとも本能が暴発しないように、早め早めにタマとムク達を発散させます。
食欲が理性を越えないように、常に満腹にさせておきます。
そのための食糧を常に確保します。
現物の食糧を自分達で確保できるのが一番ですが、購入路も確保しておく必要があります。

(心配しなくても大丈夫。
私達が付いているのだから、魔獣の本能が主の理性を越えることはない。
安心するがいい)

中級精霊達の言葉に心から安堵しました。

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