逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

第65話

「リリアン。
左方に敵だと思います」

「ドリス!
左方に敵、八番隊を迎撃に向かわせなさい。
残った部隊は別動隊を警戒」

「はい!
八番迎撃。
残りは別動隊を警戒」

領内にいるうちに襲撃をかけてくるとは思いませんでした。
いったいどういう心算なのでしょうか?
ここでケガをしたふりをして、王都に戻らないという選択もあるのに。
私を確実に殺したいのなら、王都に戻る直前の方が確実だと思うのですが?

「リリアン、何故ここで襲撃してきたのだと思いますか?」

「可能性はいくつかございますが、一番可能性が高いのは、婚約者争に勝ちたいという事でしょう。
一番可能性の高い御嬢様がここで勅命を守れなければ、陛下や王太子殿下の不興を買い、婚約者候補から外される可能性があります」

確かにリリアンの言う通りでしょう。
ですがその方が好都合です。
本心を隠さず御話しし、分かっていただけたはずの王太子殿下に、これほど望まれる事は、天にも昇るような喜びがあります。
でも、その喜びに浸る訳にはいかないのです。
国のため陛下のため、家のため父母兄弟のため、なにより王太子殿下のために、我慢しなければいけないのです。

「ですが御嬢様。
御嬢様の敵は一人一組だけではありません。
多くの個人と多くの派閥が、それぞれ利を得ようと動いております。
単純に考える訳には参りません」

そうですね、リリアンの言う通りですね。
皆が権力を得ようと必死なのです。
父上は政敵を死ぬまで追い込むような真似はされませんでしたが、生き戻る前のマナーズ男爵のやり方は凄惨を極めていました。
私一人の願いを叶えるやり方は、方法と目的の両方を変えても、同じ結果を招いてしまう可能性もありますね。

「私は父上や母上や兄上を護りたいの。
シーモア公爵家に仕えてくれる者達はもちろん、民も護りたいの。
裏の闘争は仕方がないにしても、内乱にはしたくないの。
何よりも、王太子殿下には幸せになって頂きたいの。
リリアン。
私はどうすればいいのかしら?」

「御嬢様。
御嬢様に仕える者達は、国や殿下の事よりも、シーモア公爵家と御嬢様の事を大切に思っております。
御嬢様のお幸せを蔑ろにして、殿下の幸せを考えろと仰られても、
『はい、承りました』
とはお答えできません。
どうかお許しください」

「そうでしたね。
今の言葉は、リリアン達の気持ちを蔑ろにしてしまう言葉でしたね。
許してくださいね。
でも、私が殿下を大切に想い、幸せになって頂きたと思っている事を、偽る事はできないのです。
どうかその気持ちも汲み取って、私がどうすればいいのか考えてくれないかしら?」

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