第53話リリアン視点

ムク達の力は頼りになります。
まだ完全に魔獣化していない銀狼達が、襲撃者の毒剣を掻い潜り、的確に逃亡の邪魔をして、戦闘侍女隊の到着に合わせて、襲撃者の足を噛み千切ったのです。
絶妙なタイミングで、逃げきれないと悟った襲撃者達は服毒自殺しようとしましたが、戦闘侍女隊に薬を飲まされて死ぬこともできませんでした。
これほど力があるのなら、ムク達に嫉妬する訳にはいきません。

「御嬢様。
狩りは中止して、襲撃者の尋問をしたいと思います」

「分かりました。
全てリリアンに任せます」

裏の汚れ仕事は、家柄のいい戦闘侍女には任せられません。
彼女達はいずれ同格の家に嫁いでいきます。
中には生涯御嬢様に仕える者もいますが、家柄のいい戦闘侍女は、御嬢様が正妃に成られた時に、表の仕事を手助けする事を期待されていたのです。
ですが戦闘侍女頭は別です。
清濁併せ吞む必要があります。
表の仕事だけでなく、裏の汚れ仕事にも通じている必要があります。
私がそうであるように。

「激痛薬と自白薬を用意しなさい。
使う順番を間違えないで。
順番を間違えると、痛みが軽くなりますし、自白効果も薄れます。
月熊魔獣から採れた素材を使って新たな激痛薬と自白薬も作っておいて。
素材がいいから効果も高くなるわ」

「「「「「はい！」」」」」

表の戦闘侍女の中には、裏から抜擢された戦闘侍女頭候補がいます。
ですが彼女達に尋問を任せる訳にはいきません。
というか、彼女達は既に経験者です。
裏にいる時に、尋問どころか拷問の経験もあります。
こうして戦闘侍女隊が警備している時に捕まえた襲撃者は、表出身の戦闘侍女頭候補に尋問と拷問をやらせる必要があります。
それで御嬢様に仕える覚悟を確認するのです。

表の綺麗な護衛なら完璧にできる戦闘侍女も、裏の汚れ仕事ができない場合があります。
家柄がいいだけに、汚れ仕事をするくらいなら死んだ方がマシだと言う者もいるのです。
男よりも入れ替わりの激しい戦闘侍女隊ですが、これからも人数が必要になってしまいましたし、汚れ仕事ができなくてもやる事はあります。
家柄がいい者は、奇麗に戦って御嬢様の盾となり、名誉の戦死を遂げてくれれば十分です。
ですが私が本当に欲しいのは、泥水をすすり、己の身を穢してでも、御嬢様を護る覚悟のある戦闘侍女なのです。
そういう意味でも、人間よりムク達の方は信頼出来るかもしれません。

「ウギャァアァアァアァ。
言う。
話す。
だからもう止めてくれ！」

今回は結構頑張りましたね。
激痛薬五種まで耐えました。
四人とも同じ人間を黒幕だと言っていますが、確認する必要がありますね。
王都に伝書鳩を送り、報復するか確認をとらないといけませんが、それはペイズリー殿がやってくれるでしょう。