逆行悪役令嬢は改心して聖女になる。

克全

第40話王太子ウィリアム視点

私は必死で訴えた。
それが身勝手な想いから来ている事は、十分理解している。
私の意見を通す事で、グレイスを危険に晒す事も分かっている。
一番の正妃候補であるグレイスは、ラトランド侯爵派から命を狙われるだろう。
新たに出現したマールバラ伯爵派からも命を狙われるかもしれない。

自分の身勝手さに吐き気がする!
それでも、この想いを抑える事ができない。
グレイスが欲しい!
抱きしめて、接吻して、欲望を吐き出したい!
気が狂いそうなほど、身体がグレイスを求めている。

「まずはグレイスが健康になるのを待ちましょう。
それが一番混乱なく私の正妃を選ぶ方法です。
グレイスの健康に不安がある時は、政務を代行する側妃を置けばいい。
子供が産まれないようなら、側妃の子供をグレイスの養子にすればいい。
何度も言うようだが、サマンサ嬢をシーモア公爵の養女にしてまで私の正妃にするくらいなら、この方法が一番いい!」

私は繰り返し同じことを訴えた!
特にマールバラ伯爵派や中立派に訴えた。
シーモア公爵は苦々しい顔をしている。
私の所為で、せっかく安楽に暮らせると思っていた娘が、命を狙われる生活に戻るのだ。

元凶である私を憎むのは当然だろう。
だが、恨まれることになろうとも、グレイスを手に入れたいのだ。
なんとしても正妃に迎えたいのだ。
それに、むざむざとグレイスを殺させるものか!

「貴族の権力争いは分かっている。
だが余はグレイスを愛しているのだ。
あらゆる手段を行使してでも、グレイスを正妃として迎える。
邪魔する者は絶対に許さん。
万が一グレイスを害する者があれば、九族皆殺しにする!
身体の弱いグレイスを、病死に見せかけて殺そうとする者もいるだろう。
そんな事は分かっているのだ。
グレイスに何かあれば、王家とシーモア公爵家が全力で叩き潰す!」

この場に集まった、重臣と呼ばれる貴族達があっけに取られている。
それはそうだろう。
揚げ足を取られないように、婉曲に表現するのが貴族の会話だ。
重大な政策を決定する重臣会議でも、責任を取らされないように婉曲に話す。
特に王位継承に関係する事は気をつけないといけない。

それなのに、私は貴族を脅し敵に回すような事を言った。
特に王家の藩屏であるシーモア公爵家には気を使わないといけない。
それなのに、娘の健康と命を優先すると決めたシーモア公爵に、娘を危険に晒す事を、何の根回しもせずに宣言した。

証拠を残さずにすみ、権力を維持できるのなら、シーモア公爵は私を殺して第二王子を擁立する可能性もある。
まあ、今の勢力図でそれを選ぶことはないと判断しての行動だが、それでも、危険である事には変わりがない。
そんな自分自身の危険も、グレイスへの危険も無視して、私はグレイスが欲しいのだ!

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