初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第138話脳料理

ナーポリ近郊の秘密キャンプ地

「ごはんみゃ!」

「おおおおお! アグネスがしゃべった!」

「凄いな、レベリングの御蔭だとは思うが、これほど短時間で人語を操れるようになるとは! 我らのいない間にも話していたのか?」

「いや、俺もビックリした! さっきまでは全然喋っていなかったから、食欲の賜物だな」

「アグネス、偉いぞ! 何が食べたいか、自分で言えるか?」

「やきにくみゃ!」

「よしよし焼肉だな、何を焼いて欲しいいんだ?」

「べあみゃ」

「ジャイアント・レッドベアーだね」

「べあみゃ」

「そうかそうか、今直ぐ焼いてあげるからな」

「主~、俺にも焼きてくれよ」

「分かった分かった、一緒に焼いてやるから、白虎はそのままスルメづくりをしていてくれ」

「やったね! 主は話が分かるね」

今日初めてアグネスが言葉を発した!

今日は記念すべき日だ!

「なぁ~、あるじぃ~」

「何だよ、気持ち悪いな」

「今日は特別な日なんだからよ、あれを喰わせてくれよあれを」

「あれ? あれってなんだよ?」

「主が今まで絶対食わせてくれなかった部位だよ?」

「俺が今まで食べさせなかった部位? 白虎!」

「怒るなよ、この世界じゃ普通に喰うんだよ、いや、基本高級食材だよな、セイの旦那」

「白虎に同調するのは嫌だが、それは真実だぞ、ミノル」

「いや、だけどな」

「たべたいみゃ」

「うっ! アグネスが食べたがってる?」

「たべたいみゃ」

「白虎! まさかアグネスに言わせてないだろうな?!」

「そんなことしねぇ~よ、そんなことしてもしバレたら、それこそセイの旦那に殺されちまう」

「たべたいみゃ」

「仕方ないな、湯引きするから待ってなさい」

俺は以前、白虎から脳を食べたいと言われた事がある。

だが、さすがに脳を食べることには抵抗がある。いや、脳を料理するのはもちろん、解体して触ることにも抵抗感があったのだ。

だがそれは決して、世界各国の脳を使った料理を否定するものでもないし、脳を食べる国の人達を非難するものでもないのだ。

それぞれの国や地域によって、得る事の出来る食材には限りがあり、その貴重な食材を余す事無く使って人は生きて来たのだ。他の国や地域の人が、その地域で生きて行く方法を非難するなど、それこそ身勝手て傲慢で野蛮な所業だと思うのだ。

だから俺が脳を触りたくない、料理したくない食べたくないと言うのは、あくまで俺の生理的な嫌悪感でしかない。

だがだ、だがアグネスの記念すべきこの日に、アグネス自身が脳料理を食べたいと言うのなら、これは作ってあげるしかないだろう。

俺が以前読んだネット記事では、豚脳はフォアグラほど濃厚ではなく、どちらかといえば鱈に近い淡白な味わいで、食感は極端に柔らかいフォアグラのようだと書いてあった。山羊脳は、フォアグラを柔らかくしたような食感で大変おいしかったそうだ。

だがだ!

だからと言って、狂牛病騒動以前に鶴橋で出されていた牛脳の刺身のように、ジャイアント・レッドベアーの脳刺身をアグネスに食べさせたくはない。せめて湯引きにして、葱ポン酢でタラの白子や鮭の白子のように食べてもらいたい。

しかしながら、俺も食いしん坊だから、食材の美味しさを確認したいのなら、塩味だけで食べるのがいいのは分かっている。食材そのものの旨味と甘味を愉しみたいのなら、塩を振っただけで食べるのが1番いい。

普通なら時間が経てば経つほど鮮度が落ち、臭味が出てしまうのだが、俺の場合はアイテムボックスに入れておくことで、時間の流れを止めることができる。これによって、ジャイアント・レッドベアーは何時までもとれたての状態だから、食べずに保管している脳も鮮度抜群だ。

「まずは湯引きにして見たよ、鮮度がいいから酒も加えずただの熱湯だけどね。薬味は塩・塩胡椒・カレー塩・七味塩・葱ポン酢などを用意したから、何が好きか教えてくれるかな?」

「おいしいみゃ!」

「うめぇ~! のこ旨味と甘味がたまらんわ!」

「これからトマト煮やカレー煮に、フライや茶碗蒸しなど、俺の知る限りの料理を作るから、何が好きか教えてくれ」

「おしえるみゃ!」

「教える教える、任せてくれ!」

「図に乗るな!」

「ゴメンナサイ、ごめんなさい、御免なさい!」


「各国の脳料理」
アイヌ:チノイペコタタプ(熊の脳のたたき)
刻んだ熊の頬肉と脳を混ぜ、薬味として葱を効かせ、塩で味付けする

アメリカ:エッグ・アンド・ブレイン
グレイビーソースで味付けされたブタの脳の缶詰を、スクランブルエッグと混ぜて炒める。

フランス:テット・ド・ヴォー
子牛のほほ肉を中心に舌および脳を野菜と一緒に煮込む。

フランス:
子牛の頭部肉と脳のゼリーよせ

アルジェリア:シチタ・モク
子牛脳のトマトソース煮込み

メキシコ:タコス・デ・セソス
牛の脳のタコス

キューバ:
脳にパン粉をまぶして揚げたフリッター

インドネシア:グライ・オタック
牛の脳を肉汁とココナッツミルクとスパイスの煮込み

中国:猪脳蒸豆腐(豚脳みそと豆腐)
豚脳の茶碗蒸

パキスタン:
山羊脳のカレー

日本:ブロガー料理
鹿脳のフライ

ネパール:ギディ・フライ
羊脳のフライ

韓国:(昔の日本鶴橋焼肉店)
牛脳の刺身
牛の脳をポン酢で

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