初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第119話はなたれ焼酎

(話が随分と変わったな)

(・・・・・)

(おい、ミノル)

(悪かったな)

(別に悪くはないが、何故だ?)

(俺は優柔不断なんだよ)

(ミノル)

(なんだよ)

(信用無くすぞ)

(分かってるよ!)

確かにセイの言う通りだ、冒険者ギルドまで巻き込んだ、ドワーフ族を酒で支配下に置きコントロールしようとした策は、二転三転どころか四転五転してしまった。

それでも何とか話が決まったのは、日本製の「はなたれ焼酎」をギルドを通してドワーフ族だけに売る事にしたからだ。もちろんギルドにも利益があって、手数料として1割がギルドの手の渡るのだ。

小売販売手数料が1割と言うのは、安すぎると言う意見もあった。だが180L樽売り安ワインの値段が小金貨2枚、平均的なワインでも小金貨6枚と考えれば、在庫品の置き場所や実際に手に入る金額を考えれば、手数料1割で「はなたれ焼酎」を売った方が大儲け出来るのだ。

そして何故最初に販売するのが「はなたれ焼酎」になったかと言えば、俺の気持ちが揺れ動いてしまったのが原因だ。

実際ドローン配送の魔法の仕組みがどうなっているかは分からないのだが、魔力で俺の記憶を感知して再製してるとは思えない。何故なら、俺が買ったことも食べた事もない物も送られてくるからだ。

だったらどう言う仕組みなんだと考えれば、魔力で日本のサイトにつなげて注文し、同じく魔力で商品をドローンごと転移転送させているとしか思えないのだ。

日本のサイトから購入すると仮定した場合、どうせなら日本の商品を買って、日本の生産者や会社に協力したい。そういう風に思ってしまった事が、ドワーフ代表と直談判で話していた内容が大きく変わってしまった1番の原因だ。

この大幅な口約束の変更に、ドワーフ族代表は最初激怒した!

ドワーフ族にとっては、口約束とは言え盟約を違(たが)える事は、命を取り合うほどの重い出来事なのだ。今回の俺の前言撤回は、ドワーフ代表に殺されても仕方のない事と、ドワーフ族やドワーフ族をよく知り者たちには受け止められた。

だが俺には切り札があった!

それは勿論セイから得た絶対の戦闘力ではない、そんな力による押し付けやごり押しは大嫌いなのだ。パワハラやセクハラ、いじめと矮小化される傷害事件や恐喝事件は反吐が出るくらい大嫌いなのだ。俺自身がそんな行いをするなど、絶対に嫌なのだ。

誠心誠意謝って、ドワーフ族が納得してくれる代案を出したのだ!

そう、それが試飲による商品変更の許可だった。

昨日俺がドワーフ代表に提案したのは、ウォッカやテキーラなど9種の酒だった。アルコール度数は35度から96度で、それに代わる日本製の酒となれば、泡盛以外では「はなたれ焼酎」以外は考えられなかった。

最初ドワーフ代表は激怒していたのだが、俺が最初から試飲用の「はなたれ焼酎」をテーブルに乗せていた事で、それに目を奪われ暴れるとこまではいかなった。

「まあ飲んでみてくれ、正直これの方が美味いんだ!」

「なに?! あのアブサンやウォッカ・スピリタスよりも美味いと言うのか?!」

「酒精では劣るが、味はこっちの方が美味いと俺は思っている。それに何より大切なことがあるのだ!」

「酒精の強さより大切なことなどあるのか?」

「量と時間だ」

「量と時間?」

「最初に話をしていた9種の酒は、量を確保するのが難しいのだ」

(ミノルは息をするように嘘をつくな)

(セイは黙ってろ、日本には嘘も方便と言う言葉が有るんだ)

(我には理解も納得も出来ん言葉だな)

「では今度の酒ならば、先の約束より安く手に入るのだな」

「いやそれは無理だ、だがその代わり泡盛を最初の約束より多く仕込むことが出来る」

「う~む、う~む、う~む、特別な日の泡盛が多く仕込めるのは有り難いが、約束を違えたのだからもう少し誠意をみせてほしいものだな」

「まぁまぁまぁ、まずは飲んでみてくれ」

「そうか、では試しに飲ませてもらうがな」

「う~む、確かに美味いな! 酒精もアブサンやウォッカ・スピリタス寄りは低いが、テキーラやUウォッカよりは強いな。だが酒にはそれぞれの性格が有るから、こちらの方が美味いと比べれるものではあるまい」

「おおそうだな、確かにその通りだが、次はこれを試してみてくれ」

「うん? 試すのか? ではタダで飲めるのか?」

「そうだ、ドワーフ代表としてどの酒がいいか試してもらっているのだ、だからこの酒も飲んでみてくれ」

「そうか、ドワーフ代表としての試飲ならば頂かねばならぬな。う~む、これはこれで美味いな、酒精は先程の酒と同じくらいだな。よく似た酒ではあるが、香りと味が微妙に違っておるな」

「そうだろう、そうだろう、同じ材料を使ってはいるが、杜氏と呼ばれる酒造りの職人によって味が変わるのだ」

「今度はこれを試してくれ」

「うん? そうか、そう言うのなら試飲させてもらおう」

「美味いか? 美味いだろう! 次はコイツだ」

「そうか、そうか、お前の誠意は分かった、ドンドン試飲してやろうではないか」

ドワーフ族代表は落ちた!

酒漬けによる接待、賄賂と言うなら言えばいい!

命懸けの約束破りを許してもらえるのなら、賄賂上等だ!




「それでだな、これが今まで試飲してもらった『はなたれ焼酎』の種類と価格表なのだよ」

「ウィッ! いいぞ! これ程美味い酒に変わるのなら約束違反ではない、ウィッ! 酒精が少々低くはなったが、その分9種から20種に酒の種類が増えたのがいい!」

(ドワーフ族がここまで酒に酔うのは珍しいな)

(そりゃあ20種用意した酒を全部飲みほしたんだぞ、しかも1巡じゃない! 20種を完全に2巡飲み干して酔わないなんてありえんよ!)

(ふむ、そう言われればそうか、だが口約束とは言え、約束破りを認めてもらえたのだ。事を荒立てたくないと言っていた、ミノルの思惑通りになってよかったではないか)

(ああ、確かにそうだな、冒険者ギルドを通じて、ドワーフ族だけが「はなたれ焼酎」を買える仕組みを、3者代表の合意で締結できたのは大きい)

そう、そうなのだ、ドワーフ族代表を酒で篭絡している間に、ギルドマスターにも来てもらったのだ。そして俺、ギルドマスター、ドワーフ族代表の3者代表が、「はなたれ焼酎契約」の合意書にサインしたのだ。

今回はただの独占売買契約でしかないが、このような契約を繰り返す事で、ドワーフ族を俺の配下として組み入れる契約・盟約にまで発展させたい!

「はなたれ焼酎価格表」
A:7年熟成酒粕焼酎:40度:720ml:小金貨19枚
B:荒濾過芋焼酎  :43度:720ml:小金貨19枚
C:黒麹芋焼酎   :44度:720ml:小金貨19枚
D:米焼酎     :44度:720ml:小金貨19枚
E:米焼酎     :40度:720ml:小金貨19枚
F:芋焼酎     :42度:500ml:小金貨14枚
G:米焼酎     :43度:500ml:小金貨14枚
H:いも焼酎    :43度:500ml:小金貨14枚
I:芋焼酎     :44度:500ml:小金貨14枚
J:ちこり焼酎   :44度:500ml:小金貨14枚
K:麦焼酎     :30度:500ml:小金貨14枚
L:芋焼酎     :44度:360ml:小金貨10枚
M:芋焼酎     :44度:360ml:小金貨10枚
N:自家培養酵母焼酎:44度:360ml:小金貨10枚
O:黒糖焼酎    :44度:300ml:小金貨 8枚
P:芋焼酎     :44度:300ml:小金貨 8枚
Q:芋焼酎     :44度:300ml:小金貨 8枚
R:無濾過原酒   :44度:300ml:小金貨 8枚
S:減圧芋焼酎   :44度:300ml:小金貨 8枚
T:芋焼酎     :44度:300ml:小金貨 8枚

「ウィッ! いいか! 7年熟成酒粕焼酎は俺が買い占めるからな!」

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