初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第115話試食試飲

「ミノル様、本当に私まで御相伴にあずかっていいんですか?」

「いいんだよ、俺も新しく作った料理が女性に喜んでもらえるか知りたかったんでね、試食してもらえると助かるんだ」

「オードリーも本当にいいの~?」

「フィオレンザは何が言いたいのよ!」

「なんでもないよぉ~」

俺はほろ酔いのオードリーにオープレイ料理を御馳走しようと思ったのだが、格式の高い店でアイテムボックスに保存している調理済みオープレイ料理を取り出すのは少々マナーが悪い。遮音や幻影魔法で、俺とオードリーが何をしても外部にばれる事はないが、日本の記憶があるので躊躇してしまう。

だからと言って、ばれないとは分かっていても、ドワーフ族等の冒険者がたむろしている場末の酒場に行くのも嫌だった。そんな話をしていると、オードリーが自分の部屋に来てくださいと言いだしたのだ!

さっきセイに「据え膳食わぬは男の恥」と言われたばかりなので、女性からのお誘いを何度も気づかない振りをするのは失礼と覚悟した!

ところがだ!

冒険者ギルドの受付で働いているはずのルームメイトのフィオレンザが、事もあろうに部屋にいたのだ。何でも以前友人に頼まれて、休日に代理出勤してあげていたそうで、その代休を今日貰ったそうなのだ。

俺もオードリーも盛り上がった心が一気に冷えたのだが、食欲だけは下がる事無く残ったので、フィオレンザも誘って食事をする事にしたのだ。

「じゃあまずこれを食べてみてくれるかな?」

「何を食べさせてくれるんですか?!」

「あんまりはしゃがないでよフィオレンザ、恥ずかしいじゃない」

「少しくらいいじゃないのオードリー、あなたは朝から美味しいワインと料理を愉しんで来たんでしょうけど、私はまだ朝から何も食べてないんだからね」

「それはフィオレンザが寝坊していたからじゃないの」

「私が昼まで寝てようがオードリーに迷惑かけた訳じゃないし、別にいいじゃないのよ」

「まぁそれはそうなんだけど」

(すごく、凄く、迷惑よ!)

「それともいい所を邪魔されて迷惑だった?」

「そ、そ、そ、そんなことはないわよ!」

「まぁまぁまぁ、友達同士じゃれあうのはそれくらいにして、これを食べてみてくれるかな」

「うぁ~すごぉ~い! ミノル様、これはなんなんですか?」

「オープレイの肩肉と麺をオーブンで焼きあげたものだよ」

「本当に美味しそうですミノル様!」

「まず食べてみてくれよ、その上で感想を聞かせてもらえるかな?」

「「はい!」」

俺は昨晩試作した、異世界の食材だけでアレンジした「魔獣肉と異世界麺のオーブン焼き」を2人の前に置いた。ローリエやタイムの代用に出来る香草はあったが、タマネギやニンジンの代用になる野菜・野草が手元になかったので、アグネスと白虎に作ってあげたのと同じ、肉・ベーコン・ソーセージを主体としたものだ。

バターの代わりはオープレイの脂だし、かけて焼くはずのチーズも省略してある。ベーコンの塩漬け熟成期間も短いので、味に深みが出ていない可能性もあるのだが?

「美味しい~!」

「本当に凄く美味しいです、ミノル様!」

「そっか! それはよかったよ」

「すっご~い! 下に麺が敷いてある!」

「本当! こんな料理初めてです!」

「そうか、そんなに喜んでもらえると自信がつくよ」

「オープレイのお肉は初めて食べさせてもらいましたが、こんなに美味しいんですね」

「感謝してよフィオレンザ、私のルームメイトじゃなければ、一生オープレイなんて食べれないかもしれないんだから」

「もちろん感謝してるわよ、食べ終わったらちゃんと部屋を空けるからね」

「べ、べ、べ、別にそんな事は言ってないわよ!」

「ほんとオードリーは初心なんだから」

(ほう、オードリーは初心なんだな)

(うるさい! いちいち茶々を入れるんじゃない)

(積極的に見える行為も、初心な娘の必死のアピールだったか?)

(もういいから、セイ)

「ああ、でもこんな美味しい料理にお酒がないのは寂しいなぁ~」

「ちょっとフィオレンザ!」

(酒の催促だぞ)

(そうだな、気がつかなかった俺が悪いな)

「ごめんごめん、気が利かなくて悪かったね、これでも飲んでみてよ」

「これはなんなんですか?」

「これはまさか!」

「ドワーフ族が血眼で探してる酒の1つだよ」

泡盛・44度・1800ml

「マジですか?!」

「ミノル様、本当に飲んでいいんですか?」

「いいよ、ただし酒精が強烈に強いけど大丈夫?」

「大丈夫です! 飲ませて下さい!」

「私もフィオレンザもお酒は好きなんで、少々酒精が強くても平気ですが、このような貴重なお酒を頂いて、本当にいんでしょうか?」

「いいよ、いいよ、その代わり料理と合うかどうかは教えて欲しい、ただ酔払うだけじゃ駄目だよ」

「分かってます、分かってます、だからもう飲ませてください!」

「もう! フィオレンザったら!」

「くぅ~! きっくぅ~! うっめぇ~!」

「本当! さっき御馳走して頂いた、年代物のシェリー酒精強化デザートワインも美味しかったですけど、このお酒の酒精の強さに比べたら全然物足りません!」

「なんですって~! オードリー貴女、事もあろうにシェリー酒精強化デザートワインの年代物を飲ませていただいてきたの?! あれが一体いくらすると思っているのよ? あなたはもうこれを飲まなくていいわ、全部私が飲むからよこしなさい」

「いやよ! 本来全部私が飲ませていただく筈だったよ、貴女はあくまで私のついでなんですからね!」

(おいおいおい、女同士で争いだしたぞ)

(食い物の恨みは怖いといいが、今回が酒の恨みだからな、ほっておくのは不味いな)

(だったらどうするのだ?)

(こうするんだよ)

ドン!

「まぁまぁまぁ、1人1本づつにすればいいよ」

「もう1本くださるんですか?!」

「宜しいんですかミノル様?」

「酒で争ったり恨みを残すのはドワーフ族だけにして欲しいから、公平に1人1本づつにしよう。飲みかけの1本で争うのも嫌だから、この1本も2人で1杯づつ飲んで、最初の1本と同じ条件にしておいて、後は自分の1本から飲むようにすれば公平になるだろう」

「そうですね、では早速それも1杯頂きます!」

「もう! フィオレンザったら! でもそうね、そうした方が競争して飲み干してしまわなくて済むわね」

「どう言う事よ?」

「飲み負けしないように競争になっちゃったら、こんな貴重なお酒を今晩で飲み切ってしまうじゃない。そんなもったいないことはしないで、毎日晩酌に1杯づつ飲めれば、幸せが長く続くのよ」

「えぇぇぇぇ! こんな凄い酒を途中で我慢しろって言うの? いえ本当にオードリーは我慢出来るの?」

「それは、苦しいとは思うけどさ」

「それにオードリーなら我慢しなくても、ミノル様にオネダリすればいいじゃない?」

「そんな事出来る訳ないんじゃないのよ!」

「えぇぇぇぇ! だって一緒に部屋に戻ってくる仲でしょ?」

「これからってところだったの!」

「えぇぇぇぇ! それはほんっとぅ~に御免なさい」

(こいつらミノルが眼の前にいる事を忘れているな)

(酒精が強すぎたんだな)

(1日1杯づつ飲むと言っていたオードリーだが、さっきからグイグイ飲んでいるな)

(そうだな、俺が2度料理をお替りしているのにも気づいてなさそうだな)

(酒という物は度し難いものだな)

(ああ、酒毒と言う表現もあるからな)

(酒乱と言う言葉もミノルの知識の中にはあったな、この娘らが暴れなければいいのだがな)

(さすがにそれはないだろうが、下手したら1晩で1本づつ飲み切ってしまうかもしれん)

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