初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第105話現実を知らしめる

「イルオン、後は頼んだよ」

「お任せ下さい、御師匠様」

「じゃあローザ、出発の指揮を執ってくれ」

「はい、御師匠様」

俺はイルオン、ローザ、ジェミニ、ミールの班に、テトラで手に入る最良の武具を買い与え、班に配属することになった新人にも、今扱える最良の武具を買い与えた。その上でローザ班とジェミニ班は、村に戻ることにした。もちろん村での訓練の状況は、逐一御神木が知らせてくれるので、安心して御神木に任せることが出来た。

「索敵気を抜くな! 一瞬の油断が仲間全員を殺す事になるんだぞ!」

「「「「はい、すみません!」」」」

一気にレベルが上がった事と、真新しい武具を身に着けたことで、ローザ班とジェミニ班の索敵は少々注意力が散漫になっていた。こんな事では思いがけないような些細な事で死傷してしまう可能性もあるし、今日から配属する新人達が狩りを甘く見てしまう可能性もある。

今見習いとしてチームを組んでいる者達は、少なくとも以前のパーティーで鍛えられ現実を嫌というほど体験している。僅かな油断も生命の危機に繋がる事を身をもって知ってるから、俺がどれほど厳しく注意したとしても、反発する事無く即座に対応し有り難がってくれている。

だが新人は違うのだ、初体験が俺や御神木の支援を受けた楽な訓練で、現実を知らないままレベルが上がる恐れがあると、見習達の浮かれ具合を見て気付いた。辛い経験をして、現実を嫌というほど味わって来た見習達ですら、これほど浮かれて油断してしまうなら、新人の狩り初体験は厳しい方がいいだろう。

(セイ、御神木は上手くやってくれているようだから、予定を変更してこのまま森で狩りをしようと思う)

(ふむ、ミノルが心の中で考えていたように、新人達の教育にはそれがよかろう)

(はぁ~、やはり俺の心はセイにが筒抜けなのだな)

(ディオなのだがら当然だ、いいかげん慣れろ)

(なれる事はないと思うが、諦めることは出来たよ)

(まあそれでもよい、分身体には我から伝えておく。村にいる見習達には分身体から伝えさせておく、安心するがいい)

(ああ、頼むよ)

「ローザ、ジェミニ、新人達に狩りの現実を教えるために、村での訓練の前に森で狩りをしてもらう。俺も余程の危険がない限り支援をしなから、下手をすると即死する危険がある狩りだが、やる気は有るか?」

「「はい! やらせてください」」

ローザとジェミニは仲がいい!

「2人とも好い返事だ、今から一切の支援をしない。護衛依頼の仕事の訓練にもなるから、新人達を守りながらデイノスクスの狩場まで行ってくれ」

「「はい!」」

「索敵は特に注意しろよ、以前のように危険な巨大種を間引きしたりしないからな、油断してると不意に15m級が襲いかかってくる事もあるぞ!」

「「「「はい! 頑張ります!」」」」

俺の叱咤激励を込めた指示と、見習達が途端に緊張した事で、今日初めて狩りに参加することになった新人達も見る見る緊張していった。中には真っ青になる子もいたが、こればかりは慣れてもらうしかない。いずれは適正に応じた仕事に着かせてやれるかも知れないが、今は冒険者として生きてもらうしかない。

「リカオンの群れが来ます!」

「前衛、新人を守れ!」

「「「「「おう!」」」」」

「索敵、遊撃」

「「「「「おう!」」」」」

「後衛、支援」

「「「「「おう!」」」」」

ローザとジェミニがテキパキと指示を出している。

最初の指示が出た時から、索敵・前衛・攻撃・後衛の全員が、次の指示が出る前に自分達がやるべき事を準備している。これは自分のすべきことをちゃんと理解しており、心構えも出来ていると言う事だろう。

厳しい現実を新人達に体験させるために、俺とセイは完全に気配を消して、魔獣やモンスターが狙ってくるように仕向けたのだが、これほど早く襲撃が在るとは思わなかった。やはり俺とセイの気配は強烈なようで、少しだけ漏れるようにしていても、弱小の魔獣やモンスターは近寄らないのだろう。だが見習と新人達だけの気配だと、空腹に耐えかねた魔獣やモンスターが襲ってくるのだな。

それでも急激に成長した見習達を襲うような事はなく、見習達が円陣を組んで守っている新人を狙って襲いかかってくる。動きの速い索敵役は、リカオンが前衛の盾役を避けて内側に入り込もうとするのを攻撃している。盾役も避けようとするリカオンに対して、機敏に横に移動して正面に迎えたリカオンに、盾を叩き付け攻撃する。後衛は弓や投石で支援するが、僅かにいる魔法が使えるようになった者は、眠りや麻痺の魔法を、リカオン群の後方で待機しているリーダーにかけている。

それでも遊撃・前衛を抜けてくるリカオンはいるのだが、そいつを攻撃役の者が的確に仕留めている。以前はともかく今の見習達は急激に成長しているので、遊撃・前衛を抜けるために速度が落ちているリカオンに、必殺の一撃をに叩き付けることに成功している。

「遊撃、逆撃」

「「「「「おう!」」」」」

リカオンの攻撃を凌いだ見習達は、ローザの指揮で逆撃を開始した。支援役の攻撃で、リカオン群の後方にいたリーダー達が動けなくなっている。そいつらに止めを刺すべく、自由に動ける遊撃役が、防御陣を崩して攻撃を仕掛けた。だが決して油断している訳ではなく、前衛は盾を構えて奇襲に備えているし、攻撃役も構えを解かずにいる。指揮役である後衛は、四方八方への目配りを怠っていない。

「キャィ~ン!」

僅かに残ったリカオンが哭きながら逃げて行く。

「よくやった、特にローザとジェミニの指揮は的確だったし、魔法でリーダー動けなくしたのがよかった。そうでなければもっと苦戦したいただろう」

「「ありがとうございます!」」

見習達は俺の褒め言葉で満面の笑みを浮かべているが、そんな時にも油断せず、周囲への警戒を怠らない。最初に厳しく叱責した効果なら、怒った甲斐があると言うものだ。しかしさすがにこの状況は新人達には厳しかったようで、全員が真っ青になっているし、中には震えている者もいる。

「特に今も周囲への警戒を怠らないのがいい、今回も索敵の発見が遅れていれば、新人が喰い殺されていた可能性があった、これからも油断する事のないように」

「「「「「はい!」」」」」

「皆、行軍陣に組み直すよ」

「「「「「「おう!」」」」」

好い具合に自信がついたようで、ローザ班もジェミニ班も気合のこもった状態で行軍を再開しだした。新人達は怯えた視線を周囲に投げかけているから、俺の最初の目論見は成功したのだと思う。これで急激に成長したとしても、天狗になる可能性は低くなるだろう。

村での訓練で天狗になる素振りが見えたら、御神木に適当な怪我を負わせてもらように言っておこう。

(ミノルは本当に過保護だな、馬鹿や御調子者は死ぬに任せればいいだろうに)

(仕方ないだろ、初めての弟子なんだから、可愛いんだよ!)

(まあいい、分身体には伝えておいたから、上手くやってくれるだろう)

(ありがとう、助かるよ)

(敵だな!)

(ああ、索敵役を狙っているな)

(まずいな、一撃で急所を噛み破るだけの攻撃力をそなえているな)

(そうだな、まず間違いなくあの男は噛み殺されるが、どうするんだ?)

(攻撃は受けさせよう、その上でブラッド・タイガーを仕留めて、死んだ索敵役は復活させよう)

(いいのか? 生き返らせる魔術が使えると知られたら、色々面倒に巻き込まれるから、使わないようにしていたのではないのか)

(そうだったっけ?)

(そう言っていたと思うぞ)

(そうだな、そうなると困るな、だったらどうすべきだろう?)

(殺される直前に助けに入るか、蘇生魔法ではなく治癒魔法だと言うかだな)

(ああそうか、確かに即死していたのか重症だったのかは、魔法を使った俺以外は分からん事だな)

(そうだ、何の魔法を使っても、もう少しで死ぬとこだったぞと言えば済む)

(よし、じゃあそれでいこう)

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