初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第99話見習小屋完成

俺はセイと話し合ったが、結局セイに言いくるめられるように、セイの分身体を中央に据えた小屋? を創り出すことにした。セイの分身体に頼る事になった結果、小屋どころか大型開拓村規模になってしまった。いきなりこんな規模に村を立ち上げたら、さすがに不審がられると思ったが、セイに押し切られてしまった。

何もなかったと所に、巨木としか表現しようのない分身体がメキメキと成長していくので、それぞれの役割をこなしていた見習達も、あぜんとした表情を浮かべて棒立ちになってしまっている。

「気にするな! 守り神となる聖樹を召喚しただけだ、お前達は自分に役割に集中しろ」

「「「「「はい!」」」」」

一瞬返事が遅れたものの、俺の言葉を受けて、見習達は自分の役割を果たすべく戻って行ったが、集中しきれていないのは一目瞭然だ。

「自分の仕事に集中せんか! 気を散らすと死ぬぞ!」

「「「「「はい!」」」」」

俺は瞑想の集中する振りをしながら、セイと分身体の仕事ぶりを観察していた。

(後は分身体に任せればいい、ミノルは見習達に経験を積ませてやったらどうだ)

(そうだな、時間は大切にしないといけないな)

「集合!」

「「「「「はい!」」」」」

今回の狩りには、1班から5班までの見習パーティーが参加しているが、総勢31人で冒険者の狩りとしては大規模になる。実力的には全然ダメダメだが、俺が支援魔法で獲物を動けなくして、止めを刺させて経験値を稼がせるのなら、実力が無くても関係ない。

だがそれでは経験値は稼げても、本当に大切な経験は得られない。そこで今回の狩りは、即死させられる可能性の低いアナコンダを選んだ。アナコンダの群生地まで索敵させ、普段から集中して周囲の警戒が出来るように仕込んだ。

群生地について俺が最初にしたのは、あまりに巨大で、見習達に相手させるのが危険な個体の間引きだった。10m級1頭・9m級3頭・8m級8頭を風魔法で即死させ、7m級11頭・6m級22頭を、見習達に戦わせて経験を積ませた。

前回はイルオン、ローザ、ジェミニだけがパーティーメンバーに的確な指示を出し、俺の支援なしでアナコンダを狩っていたが、今回は参加した5班全てが俺の支援なしで狩りを成功させた。強敵と判断した大型を間引いた後とは言え、見習パーティーだけでアナコンダを狩れたのは大きな成果だ。

「見習だけでよくやった、だが過信するんじゃないぞ、お前達が喰われそうな個体は俺が先に間引いていたからこその結果だ。思い上がって自分達だけでここに来れば、全滅する危険もある、何があっても生き残れるように、余裕を持った相手を狩るんだぞ」

「「「「「はい!」」」」」

俺は見習達を引き連れて、一旦冒険者ギルドに戻ることにした。昼食はまだだったが、俺がいない場合を考えれば、仕方がない場合以外は狩場でのんびりと食事などしない方がいい。飲食や排泄時は危険だから、それらの行為は極力安全な場所で済ませる癖をつけるべきだ。

以前は俺も経験が足らず、平気で見習達に城外で食事させていたが、今は大いに反省している。どうも通常の感覚を失っているようで、見習達だけではなく、俺自身も常に行動を顧みて反省し改めなければならない。

昼過ぎにテトラ街に戻った俺達は、それぞれ別々に行動することにした。見習達には留守番の者達と食事をさせ、俺はギルドで獲物を売却することにしたのだ。

やはりこのギルドは、獲物を互いに確認する必要がなく、御任せで査定する買い取りの方法だった。ビラン街で教わったからおかしい制度だとは思うが、これ以上揉め事を起こしたくないし、御金にも食糧にも困っていないので、御任せ買い取りに従う事にした。

まあ少々誤魔化されたとしても、俺には時間がかからない方が有り難い。査定に付き添う時間があれば、その時間で誤魔化された以上の価値のある獲物を狩る事が出来る。最低限査定に必要な計測は以下の結果だったので、その分の御金を受け取り、解体後の肉は見習達でも受け取れるように手続した。

「アナコンダ皮」
6m:120kg:22頭× 13万1220=288万6840
7m:160kg:11頭× 17万4960=192万4560
8m:200kg: 8頭× 53万1441=425万1528
9m:300kg: 3頭× 79万7161=239万1484
10m:400kg: 1頭×106万2882=106万2882
合計1251万7294
小銅貨:4
大銅貨:9
小銀貨:2
大銀貨:7
小金貨:1
大金貨:5
白金貨:12

(ミノル、見習達の所にはいかないのか?)

(俺と一緒だとくつろげないだろう、食事はのびのびと食べたいものだからな)

(気を使うのだな)

(まあな、それに人型の食材は食べたくないしな)

俺は冒険者ギルドの食堂に陣取り、アイテムボックスから作り置きを取り出して食べることにした。白御飯やパンは食べたいと思わないのだが、野菜だけは多少食べた方がいいと思い、リュウが手を付けなかった付け合わせと、メインのジャイアント・レッドベアーのステーキを食べることにした。

1度レベルの高い食材を食べてしまうと、なかなか低レベルの食材では満足できなくなる。

「昼食」
ジャイアントレッドベアーのシャトーブリアンステーキ
ジャイアントレッドベアーのサーロインステーキ
小海老の天ぷら付け合わせサラダ:3人前
フライドポテト:1人前
人参グラッセ:1人前
バターコーン:2人前
ほうれん草バター:4人前

(小屋が完成したぞ)

(そうか、なら確認がてら午後の狩りに出かけるとするか)

(暗くなると見習には危険だが、それでも構わないのか?)

(分身体が創り出した小屋で泊まれば安心なのだろ)

(それはそうだが、地面に雑魚寝するのか?)

(蔦で作ったベットと柔らかな芝で作ったマットレスに、フワフワに葉で作った布団が有るんだろ)

(ぜいたくな奴だな)

(セイが強引に分身体を勧めたんだ、それくらいのサービスはつけてくれ)

(仕方ない奴だな、狩りが終わって帰りつくまでには全員の部屋に用意しておく、何人分なのだ)

(午後は6班から3班まで参加させるから31人だ)

(4班5班は新人の世話に残るんだな)

(ああ、だが出来る事なら新人の分も含めて、92人分用意しておいて欲しいな)

(いずれは用意するが、今回は31人分でいいんだろう?)

(ああ構わんよ)

「見習パーティー」
1班:7人(イルオン)
2班:6人(ローザ)
3班:6人(ジェミニ)
4班:6人(ベルク)
5班:6人(ケイン)
6班:6人(アベル)
7班:6人(ミール)
合計:43人

見習い未満:49人

「午後の狩りに行く、4班5班は残って新人の訓練と世話を頼む」

「「「「「「はい!」」」」」

俺も分身体が完成させたと言う小屋には興味津々で、結構ワクワクドキドキしながら向かっていった。目的地に近づくにつれ、朝来た時より森が密集しているのが分かる。開拓村の時もそうだったが、分身体が根や枝を広げる時は、その場所に元からいる植物を滅ぼすのではなく移動させていた。

その事を考えれば、今回移動させた植物の量が尋常ではなく、俺の想定以上の規模の小屋になっていそうで、心臓の鼓動が早くなって来た。

思っていた以上に早く森が切れ、広々とした草原地帯が現れた!

朝一緒に来た1班から3班の見習達も、唖然とした表情を浮べている。だがそれも当然だろう、それでなくとも大木が多かった森だが、それを十倍する高さと太さの巨木が忽然と現れたのだから。

最初は巨木に気を取られて気づかなかったが、巨木を囲むように、びっしりと蔦に覆われた円形の建物がある。開拓村の城壁と同じだとすれば、木製の塀を分身体が強靭な枝で補強したものだ。だが今回は、基礎となる木塀なしに、分身体だけで城壁兼用の住居を建てたのだろう。

(セイ、あの城壁の中に住むんだな?)

(ああそうだ、排便したらそれを分身体が吸収処理するし、水が飲みたければ果汁たっぷりの果実をもぎ取ればいい。もちろんパンの実もバナナも実るから、食料に困る事はない)

(それは助かるんだが、想像していたよりも規模が大きいな)

(どんどん子供達が集まるのだろう? 集まった子供達は全て助けるのだろう? 最初から規模は大きい方がいい。この噂が広まれば、それこそ多くの子供達が安心して集まって来るだろうよ)

(そうだな、その方がいいな)

(原初の人間も子供達の事は気に掛けていた、原初の存在が、子孫の繁栄にいちいち介入する訳にはいかんが、報復に来た我が自由に振る舞う分には問題無い)

(なんだ、ちゃんと事前交渉していたのだな)

(当然であろう、原初同士が争えば、それこそ世界の破滅だ)

「御師匠様、あれが御師匠様が創り出して下さった小屋なのでしょうか?」

「そうだ、行くぞ」

いかんいかん、セイと念話している間、見習達を放っておいたから、随分不安だったのだろう。顔面を引き攣らせたイルオンが、皆を代表する形で質問してきた。

「「「「「はい!」」」」」

近づいて改めて驚いたのだが、円形の城壁兼用住居の周りは、30m規模の水濠が囲んでいる。俺達が近づくと、跳ね橋の形に集まった蔦が自然と下りて来て、水濠を渡れるようにしてくれた。城壁の高さは20mくらいだろうか、天井の上は人が出て防備の為に渡れるようになっていそうだ。

見習達と一旦城壁の内側に出た、アーチ状の通路から城壁内に入れないのは、防御上当然の処置だろう。内側から見ると、蔦で編まれた階段があり、予想通り城壁の上に上れるようだ。

(あそこから入れ)

セイの言葉を受けてそちらを見れば、閉じられていたはずの蔦の城壁が口を開けている。そんな事が出来るのなら、外側に口を開けてくれと思ったが、そんな事が出来ると分かれば見習達が心配するかもしれない。出入り口はあくまで内側からしか開かないと思わせた方がいいだろう。

見習達を引き連れて中に入ったが、1階は真ん中の通路を挟んで、外側と内側に窓の全くない倉庫が並んでいた。2階は同じく通路を挟んで、外側と内側に部屋が並んでいたが、弓矢を射るための狭間と石を落とすための隙間が有り、多少の明かりが入ってくるようになっていた。

部屋の中には蔦で編みこまれた2段ベットが左右の壁にある4人部屋で、同じく蔦で編まれたトイレと浴槽まであった。しかもベットの上にはジュースのたっぷり入った果実が置かれていて、天井からも多くの果実がぶら下がっている。

(使い方を説明してやれ)

(おいおいおい、教えてやれと言われても、俺が聞いてないだろうが)

(そうだったか?)

(ふざけてないでさっさと教えろ、お前俺に隠れて酒飲んだんじゃないだろうな?!)

(・・・・・)

(それでよく白虎を怒れるな!)

(各部屋には神棚を設けてあるから、そこに祈れば浴槽に温められた地下水が汲み上げられるようになっている)

(無視かよ!)

(果実が足らなければ、同じく神棚に祈れば新しい果実が実るようになっている)

(神棚なんてどうやって知ったんだ、て、俺と知識を共有していたんだな)

(まあそう言う事だ、それに祈る事で自然と魔力を使うようになるから、魔力増強の訓練にもなる)

(そう言うものなのか?)

(ミノルが訓練になるような祈り方を教えればいい)

(はいはいはい、分かりましたよ。まあセイも、俺の想像以上に素晴らしい拠点を創り出してくれたから、俺も出来る限りのことをするよ)

(そう言ってくれれば、分身体にいちいち指図した甲斐が有る)

俺は見習達に向き直り、部屋や部屋の中の仕掛けの使い方を説明した。特に神棚への祈りの捧げ方は丁寧に教えて、部屋の中でも自然に魔力の鍛錬が出来るようにした。彼らに取っては夢のような棲家で、夢心地の表情だったが、それも当然だろう。俺だってこんな小屋が出来上がるとは想像もしていなかったのだから。

小屋と言うよりも城壁部屋だが、4階建てで3階4階も2階と同じ構造だった。

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