初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第59話網猟

「御師匠様、肉が焼きあがりました」

「ありがとう、皆(みんな)も食べなさい」

「「「「「はい」」」」」

俺がファングラットの腿焼にかぶりつくと、ようやく見習達も安心して肉にかぶりついた。昨晩や今朝の食事は、狩り以外の時間帯に命令して食べさせたから安心して食べれたようなのだが、今日の昼食は狩りの途中での食事なので、俺より先に食事を始めるのが怖いようだ。

ほとんどの見習いが、パーティの正規メンバーの食べ残ししか与えられなかったようだ。いや、食べ残しでも与えられればいい方で、ほとんどの場合は昼食抜きでこき使われていたそうだ。だからこそ、俺も一緒に昼食を食べると言っておいたから、俺より先に食べて怒られることを恐れていたようだ。

だがまあなんだ、田舎の元百姓の長男である俺に取っても、師匠や親より先に食事をすると言うのは考えられない。暴力や飯抜きなどの虐待は大嫌いだが、礼節を重んじること自体は賛成で、このような態度は正直うれしく思う。

「午前の狩りは順調で、4・5日分の食料は十分確保出来た、だから安心して腹一杯食べていいぞ」

「はい、ありがとうございます、御師匠様」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

イルオンの言葉に合わせて、見習達が声を揃えて御礼を言ってくれる。これも正直有り難い事で、俺自身の生きがいを見つけたような気分になる。だからこそ出来る限り、彼らが独立して生きて行けるように支援してあげたい。そうなると今後も昼食は一緒に食べる事になるので、午前と同じように四つ脚の獣を主体に狩りをする事にした。

午前の間に狩った獲物は以下の通りだ。
ホーンラビット:19頭
ファングラット:43頭

午前中だけで昨日よりも長時間狩りをしているので、俺の感覚では満足できる成果ではないが、見習達の経験では大豊猟だそうだ。

午後からは見習達の経験値を稼ぐ事より、自分が食べたい獣を狩る事にしたのだが、街の近くのホーンラビットとファングラットは狩り尽してしまったようだ。だから狩りを継続するなら遠出しなければいけないのだが、獣肉ばかりだとちょっと飽きるので、鶏肉を食べてみたくなった。

もちろん鶏(ニワトリ)などいないのだが、空を飛ぶ鳥類は狩るのが難いようで、街の近くでも鳩(ハト)や烏(カラス)・雀(スズメ)や椋鳥(ムクドリ)に似た鳥が沢山群れている。

「イルオン、あの黒い鳥は何て呼んでいるんだ?」

「あれはこの辺ではクロウと呼んでいます」

「食べたりするのか?」

「はい、僕は食べた事ありませんが、結構美味しいそうです」

「食べた事がないのは、狩るのが難しいからなのかい?」

「はい、飛ぶ事の出来るモンスターや鳥類は、刀槍で狩るのが難しいです。かと言って、弓を使って狩るにしても、鳥類は的が小さくて中々当てることが出来ません」

「なるほどね、それなりに美味しいのに狩るのが難しいと言う事は、値段も高くなると言う事だね」

「はい、僕達の力ではとても狩れませんし、狩って食べる事も出来ません」

「そうか、だが俺の知っている狩りの方法で、網を使って罠を張り、そこの鳥を追い込むと言う方法が有るんだけど、そんな手法を使う猟師はいないのかい?」

「いるのはいるんですが、大型のモンスターが掛かってしまった場合、網をズタズタに破壊されてしまうので、収入額に損害額が追い付かないことがあるんです」

「なるほどね、それなら冒険者が狩る陸上モンスターを、消耗が少ない刀槍で狩る方が安全確実な収入になるんだね」

「はい、鳥好きな人もいるにはいるんですが、そんな人でも鳥の値段が高すぎると買うのを躊躇いますし、本当に好きな人は、投げ網を自分で買って自分で食べる分だけ狩っています」

「たくさん狩れた時は余った分を売りに出すか、親しい人にお裾分けするんだな」

「はい、でも鳥が狩られない1番の理由は、殺しても経験値が得られないことだと思います。もし少しでも経験値が得られるのなら、僕達見習いが必死で狩ってると思います」

「なるほどね、戦闘力と経験値が低い見習いでも、鳥なら時間を掛けて追い回せば安全に狩れる可能性もある。でもそれでは食料は手に入っても、冒険者として経験値が稼げずレベルも上がらないから、最低でもホーンラビットやファングラットを狙うんだね」

「はい」

「だがそうなると、街の近くにいる低級の獣はほとんど狩ってしまったから、少し郊外まで出て新たな狩場に行くか、食料を目的にここに留まって鳥を狩るかの判断をしないといけないな。イルオンはどうしたい?」

「僕は少しでも経験値が稼げる、郊外での狩りを手伝わせていただきたいです。いや、僕だけではなく、ここにいる見習全員がそう思っているはずです。ですが御師匠様は、故郷の村に出来るだけ早く、可能な限りたくさんの食料を持って帰らなければならないと聞いています。ですから、御師匠様が1番食料を確保出来ると判断された方法を取られて下さい」

「「「「「「はい、そうなされてください!」」」」」

いい子達だ!

イルオンが視線を向けると、見習達が一斉に同意の返事をしてくれた。こういう子供たちには、出来る事を全部してあげたくなる。ここは自分の食欲より、子供たちの経験値を優先しない男じゃないね!

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