初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

第19話ロティと野外調理

陽(ひ)が暮(く)れて、照明器具(しょうめいきぐ)も照明に使う余分な燃料もない貧乏村は、普通は早々に眠りにつくはずなんだが今日は喜びに沸(わ)いていた。俺と生命の大樹を称え、年に1度の祭りの様に火を焚(た)いて踊(おど)り狂っている。

まあなんだ、子供たちにしたら、生まれてから1度も食べたことが無い、小麦粉で作った無発酵のパン(ロティ)を食べることだ出来たのだ。しかも低温殺菌の牛乳を飲む許可も出したから、大人たちでも生まれて初めての大御馳走(だいごちそう)を食べれたのだ、喜びで踊り狂うのも仕方のない事だと村長が熱く語っていた。

インドの無発酵パンはロティと呼ばれているが、日本で知られているナンは専用の窯が必要なため、一般家庭ではロティの方がよく食べられている。

普通は小麦粉・塩・オリーブオイルを入れて軽く混ぜ、お湯を加えてひたすらこねるのだが。今回はこれ以上贅沢(いじょうぜいたく)させない方がいいと言うセイのアドバイスにしたがい、オリーブオイルなしで作らせる事にした。

表面が滑らかになるまでこねたら1時間生地を休ませる。

打ち粉をした台で生地を薄く伸ばして、各家庭にある料理石に油をひかずに両面を焼く。貧乏村に鉄製のフライパンを持っている家など少なく、そこら辺に落ちている石の中で比較的平らな物を使って料理しているようだ。

生地が膨らんできたら、日本じゃ乾いたふきんやアルミ製のフライ返しで軽く押して空気を抜いて完成なのだが、貧乏村では材木から切り出したフライ返しやナイフ・フォークで作っている。貴重な金属は狩りの為の武器にしか使えない。俺から見たら貧乏料理でも、村人は大喜びで美味しい美味しいと食べている。まあなんだ、石の上で焼いている塩味の利いた白モツから出る脂が、オリーブオイルの代わりをしているのかもしれない。

「それに聖者様! リーダーオークの内臓の美味しいこと美味しいこと! これほどタップリと塩を掛ける事が許されるなど、今までの人生では考えられない事でございます!」

「まあなんだ、喜んでもらえて俺も嬉しいよ。せっかくの宴(うたげ)に水を差してもいけないから、ここは黙って村の外に行かせてもらうよ。ああああ、皆に知らせるんじゃない村長、私は静かに眠りたいのだ。そうだ心配するな、まだ村を出て行く訳ではない、明日も昼か夕方には村に来る、だから黙って出て行かせるんだ、いいな!」

俺は酒が飲めないので村人に焼酎を飲ませなかったし、宴会などの人の集まりも苦手なので、早々に村から出てトレーラーハウスで寝ることにした。せっかく綺麗(きれい)なトイレを手に入れたのだ、汚く臭い上に蟲(むし)まで湧いている村のトイレは絶対使いたくない。

トイレを済ませてクィーンベットに倒れ込みたい誘惑(ゆうわく)を振り払い、バーベキューコンロを3台取り出して、村人への指導途中に暇を見てハーブ塩麹で下ごしらえしていたホーンラビット6羽を丸焼きにした。BBQ味で作った丸焼きが食べれなかったことは諦められたのだが、ハーブ塩麹味が食べれなかったことはどうしても諦められなかったのだ!

もう強烈な眠気に耐えられず、すっかり水になっているであろうジャグジーに入って、温泉酒を愉しむ白虎に文句も言う気力もなく、トレーラーハウスのクィーンベットに倒れ込んで眠ったのだ!



長年染みついた習慣とは恐ろしいもので、いつものように6時半に起きてしまった。夢の中でまで仕事の段取りに決まった時間起きるなど、深層心理に染みついた思いは困ったものだ。

(ミノル、グレーボアを丸焼きにする為の魔道オーブンを白虎に作らせたらどうだ?)

「どう言う事だ?」

俺がトレーラーハウスの洗面で歯磨きする為に、自分で空中に浮いてくれているセイが不意に話しかけて来た。こんな風に自分で浮けるのなら、いつもいつも俺に持たせるのは止めて欲しいものだ。セイとデュオになった御蔭か、1日中鉢植えを持ってい疲れもしなければ筋肉痛になることもないのだが、なにげにセイの下僕(げぼく)になっているようで嫌なのだ。

(白虎は金・土・水の魔法が使えると言ってであろう、土と金からグレーボアやジャイアント・レッドベアーを丸焼き出来るくらい大きなオーブンを創り出させれば、1度に大量の料理を作ることができるであろう)

「それはそうだが、そんな事をする必要があるのか?」

(風魔法を駆使(くし)して、魔道オーブンを使えるように工夫しておけば、ミノルが下ごしらえだけして、後は白虎に料理を作らせる事も出来るのではないか?)

「確かにその通りだ! このまま白虎につきまとわれて、3度3度食事を作らせられるのでは大変だ」

(ミノルが本当にいやがっているのなら、白虎ごとき何時でも殺してしまうのだが、なんだかんだ言って知り合った者を殺すのは嫌なようだからな)

「そう言われると矛盾(むじゅん)しているのだが、嫌(いや)だ面倒(めんどう)だとは言っても相手を殺してしまうほど嫌(いや)でも嫌(きら)いでもないのだよ」

「分かっている、だから白虎を使えと言っているのだ、相手はミノルの家臣なのだ、命令してやらせればいいのだ」

「分かった、精々(せいぜい)家臣として働いてもらう事にしよう、嫌(いや)なら主従契約を解除して好きな所に行けばいいのだしな」




「お~い主人、酒が無くなった、酒をくれ」

トレーラーハウスを出たとたん、白虎が声をかけて来たのだが、開口1番酒を寄越せと言ってくる。昨晩からずっとジャグジーに浸かっていたのだろうか?

(無礼者! 家臣の分際で主人に物を要求するとは何事か! 今この場で引き裂いてくれる!)

「ヒィー! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! もう言いません!」

よほど怖かったんだろう、白虎は耳を倒してしっぽをしまってしゃがみこみ、降参ポーズをとって半泣きになっている。

(ならば家臣として働いてもらおう、我の言う通りに魔道具を作るのだ)

セイが白虎を使って魔道オーブンを作らせ始めたのだが、どうやら俺が昨晩出しっぱなしにしたバーベキューコンロを手本に作らせるようだ。だがよくよく考えてみれば、魔力の総量も知識もセイの方が各段に上なのだ、初めからセイが創り出してくれれば簡単なのだ。

なによりセイなら、俺の頭と心の中にある映像を見ることが出来るのだから、バーベキューコンロを参考にする必要も無い。今まで俺がアニメや実写で観た想像の料理器具ですら創り出すことが可能だろうに、どうかんがえても白虎を躾(しつ)けるための作業でしかない。

まあなんだ、本来は主人と言われた俺がすべきことを、セイが代わってやってくれているのだ、心の中だけであろうと文句を言うべき事じゃない。今俺がすべきことは、美味しい朝食を作って営気(えいき)を養う事だ!

朝食には卵料理が定番なのだが、どうにも昨日村人が食べていた白モツの石焼きが頭を離れない!

まずは昨日見た塩焼きを食べたいのだが、塩だけではもったいない気がする。せっかくハーブ塩があるのだから、最初に塩だけで食べてハーブ塩に変えていくのがいいだろう。もちろんそれだけでは面白くないから、すりおろしニンニク・七味唐辛子・赤唐辛子・山椒・黒胡椒・醤油を俺流の配分で混ぜたタレに漬けた物も用意しておく。

そうそう断っておくが、俺が食べるのはグレーボアの白モツであってオークではない!

それと白モツは開いていないし脂も取っていない!

下ごしらえが悪かったり鮮度が悪かったりすると、臭味が強くて食べられた物じゃないが、アイテムボックスに入れて時間経過は止めてあるし、疲れて眠るほど手間暇かけて下ごしらえもしたのだ。

焼く時に出た脂を使ってモヤシ炒め・野菜炒め・スクランブルエッグが食べたくなって、急いで以下の物を買い揃えた。

チタニアチタン・30cm板厚1・2mm北京鍋:57834×10=578340
世羅高原たまご・白玉Lサイズ・10Kg詰め (160個):3300×10=33000
栃木県産他・もやし・200g・20入1箱:1790×10=17900
1人前カット野菜:420×100=42000
(キャベツ・玉ねぎ・にんじん・かぼちゃ・しいたけ・ピーマン)

アイテムボックスに入れておけば腐らないし、いちいちドローン配送で注文する必要も無い。容量もほぼ無限と言えるのだから、買える時に買えるだけ買っておけばいいのだ!

塩味だけをつけて白モツ500g位を北京鍋で炒めて、皿に移す事無く鍋から直接食べる!

美味い!

脂の味が何とも表現できないほど美味い!

白虎がもの欲しそうな視線を向けて来たが、途端にセイにこっぴどく怒られ、半泣きになって魔道オーブン作りを再開している。まあいい薬になるだろう、俺が満足したら昼飯に作ってやろう、もちろん白虎の分はオーク肉でだが。

全部食べた後でも鍋底にはタップリと脂が残っている、もう1度鍋を火にかけて1人前のカット野菜を入れて強火で炒める。

グレーボアの脂の御蔭だろうか?

白モツに掛けた多目の塩の御蔭だろうか?

野菜自体の甘味と旨味が引き出され格別美味しく感じる。朝食だから食べ過ぎないように、ここで食べるのを止めるべきかもしれないが、あまりの美味しさに我慢が利かず、ハーブ塩で下ごしらえした白モツ500g程度をもう1度炒めることにした。

「やめろ! まて! それは余に喰わせるのだ!」

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