「婚約破棄」「ざまあ」短編集5巻

克全

第10話

デイジーは田植えを手伝っていた。
なにもせずに遊びほうけている事などできなかった。
スケルトンと共に、苗を一本一本手植えしていた。
だがとてもではないが、疲れ知らずのスケルトンと同じように植える事などできないので、デイジーの場所だけ遅れることになる。

だが、それでも、スケルトンもデイジーもとても楽しそうだった。
ルビーのような左瞳とサファイアのような右瞳を輝かせていた。
雪のような純白の肌も、真銀のように光り輝く銀髪も、跳ねた泥にまみれていたが、こぼれんばかりの笑顔を浮かべていた。
労働する喜びに満ちていた。

思わず唄まで歌いだしていた。
春の鳥の愛の囀りや、虫の音に合わせて、無意識に歌っていた。
ハットなって歌うのをやめると、スケルトン達が哀しそうな表情を浮かべる。
声帯のない彼らは、唄を歌いたくても歌えないのだ。
スケルトン達の眼にうながされて、デイジーは再び歌いだした。

スケルトン達に雰囲気を感じながら、多くの唄を歌った。
生命の賛歌とも言える唄もあり、スケルトン達が気を悪くするかもしれないと、一瞬心配したデイジーだったが、スケルトン達は全然気にしていなかった。
しかも、スケルトンによって好みが違うようで、一体一体歌う唄によって反応が違うのが面白い。

「やあ、愉しそうだねデイジー嬢。
僕も歌っていいかな?」

「はい、騎士様。
一緒に歌って頂けると嬉しいです」

昨晩ローリー国王に残虐な拷問を加えた真金の騎士だったが、デイジーを匿っている領地にやってきたのは、昼も大きく過ぎてむしろ夕刻に近い時間だった。
真金の騎士にも表の姿があり、やらねばならない仕事任務があるのだ。
今晩も拷問を続けるとなると、自由に使える時間は少ないのだ。
その僅かな時間を、真金の騎士はデイジーと過ごしたかったのだ。

デイジーと真金の騎士のデュエットは、とても素晴らしかった。
デイジーの独唱・ソロも、美女の美声を愉しみ聞き惚れる事ができる。
だが、美男美女が、それぞれの美声を併せたり競い合わせたるする魅力も、捨てがたかった。

「デイジー嬢はこんな唄は知っているかな?」

真金の騎士がそんな言葉をかけながら、デイジーの知らない唄を歌う。
デイジーが知らないと答えると、教えてくれるというので、素直に教えてもらったが、スケルトンのなかには今まで以上に嬉しそうにしている者がいる。
そのスケルトンは、前世でその唄をよく歌っていたのかもしれない。
前世の母国の唄なのかも知れないと思ったデイジーは、真金の騎士がいない時でも一人で歌えるように、真剣に学んだ。


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