「婚約破棄」「ざまあ」短編集5巻

克全

第11話

私の質問に、義母上と義父上が雷を受けたように硬直されました。
お二人だけではありません。
全ての侍女が、一斉にメリッサご典医に視線を向けます。
全員が縋るような視線です。
そんな視線を向けられたメリッサご典医に少し同情しました。
責任も感じました。
ですが、これだけは、どうしても聞かなければいけない事なのです。

「……今は何とも言えません。
この毒は西方のモノです。
この国で使われることは、普通はないのです。
過去の症例も全くありません。
私がこの毒の事を知っていたのは、毒の研究が好きだからです。
だから約束はできません。
ですが、全力を尽くす事は約束します。
西方から集められる限りの症例を集ます。
治療の情報も集められる限り集めます。
その中に治す方法があるかもしれません。
それまでは多くの水を飲んでください。
身体に蓄積された毒素を抜いてください。
ああ、ただし治療薬は飲まないでください。
飲むと毒が悪い方に反応するかもしれません」

「分かりました!
お願いします。
必ず先生の言う通りにします。
だから、だからお願いします。
治してください。
どうか治してください!
私達に子供を授けてください!」

「先生!
私からもお願いします、先生!
どうか、どうか、どうかジュリアを治してやってください!
何でもします!
先ほど言われていた西方の情報も、ありとあらゆる方法を使って集めます。
何でも言ってください!」

義父上がここでグッと言葉を飲み込まれました。
たぶん、金に糸目はつけないとか、お礼を払うと言いかけられたのでしょう。
ですが義父上は、何とかその言葉を飲み込まれました。
口にしなくても、借金をしてでもお礼をされるでしょう。
でもそれを口にするのは、メリッサご典医を穢すことになります。

「大丈夫ですよ。
私も典医の役目をいただいております。
典医の誇りにかけて、全力を尽くさせていただきます。
ですが資金的に限界があります。
毒の資料を西方から集めてくだされば助かります。
それとレイノルド伯爵も、今から診察させてください。
レイノルド伯爵夫人を診察さえていただくのは当然ですが、目的が子供を作らせない事でしたら、レイノルド伯爵にも何かの毒を盛っている可能性があります。
この者の部屋はもちろん、普段近づいていた場所を全て調べた方がいいです。
この毒だけとは限りません。
他の毒も併用している可能性があります」

刺客への拷問が激烈になりますね。
普段はとてもお優しい義母上と義父上が、視線だけで殺せそうな、怨念の籠った目で刺客を睨みつけています。
そんな拷問を見るのは嫌なので、私は義母上の診察に同行させてもらいましょう。

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