「婚約破棄」「ざまあ」短編集5巻

克全

第2話

私は自由です!
どこで何を食べようと、いつ寝ようと自由です!
野菜や果物は馬の黒王と白王が探し出してくれます。
肉は虎の蒼虎と赤虎が狩ってくれるので、食糧に不自由することはありません。
毎日が楽しく愉快に過ごせています。

ですが、嫌なモノも眼にすることになります。
アグノエル王国内を旅していると、色々な領地があり、父上が統治されているヴァランタン公爵領のようにはいきません。
各領主の性格により、悪政が敷かれている領地もあります。
各領主の能力により、悪党がのさばっている領地もあります。

今いるメンドーサ侯爵家の領都は繁栄しています。
普通の侯爵家の領都なら、領都の住民は五千人いればいい方です。
ここメンドーサ城は、一万人を超える領民が住んでいるのです。
ですがこれは、領主であるゴンサロ殿に能力があるからではないのです。
彼は社交界でも有名な愚か者です。

メンドーサ城が繁栄しているのは、庶民街を支配している犯罪者ギルのお陰です。
お陰というのはおかしい表現ですが、犯罪者ギルドは城内で大っぴらに、盗んだ品物を売買する故買市を開催しているのです。
普通なら王家に聞こえるのを恐れて、各領主が取り締まるのですが、メンドーサ侯爵ゴンサロ殿が無能なので、誰憚ることなく開催されています。
それゆえ、王国各地から犯罪者が盗品や奴隷を持って集まり繁栄しているのです。

「さぁ、さぁ、さぁ、さぁ、よく見てくれ!
この娘の貴賓のよさを!
こんな上玉は滅多に出ないよ!
しかも父親を殺して誘拐してきた連中の行儀がよくて、また誰も抱いていない純潔の乙女だ!
今ならたった銀貨二千枚だ!
金貨で払ってくれるのなら百五十枚でいいぞ。
どうだい、買って味見してみないか?
自分で味見してから売春させれば直ぐ元が取れるぜ!」

心の奥底から怒りが湧いてきます!
何も考えずに暴れられたら最高なのですが、さすがにこの街で暴れるほど考えなしではありません。
金貨百五十枚なら払えない金額ではないのですが、千人規模の奴隷市で全員に情けをかけられるほど、金を持っているわけではありません。

今目の前にいる一人だけでも助けることが正しいのか。
全員を助けられないのなら、公平を期して誰も助けないのか。
何が正しいのか分かりません。
家を出て色々な事を眼にして、悩みが増えてしまいました。

「どうです、立派な騎士様。
今宵の相手に買ってみられてはいかがです?
味見して気に入らなければ半額で買い戻してもいいですよ。
騎士様なら金貨の百枚や二百枚、大した額ではないでしょう」

嫌な眼で見ていますね。
奴隷店主の配下であろう者たちが、私を囲むように移動しています。
私が女だと気がついたのでしょうか?


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