「婚約破棄」「ざまあ」短編集5巻

克全

第5話

頭の中に直接言葉が響きます。
吐き気に加えてとんでもな違和感に襲われます。
吐き気が増してしまいますが、無視もできません。
旅に出てから驚きの連続です。
うちの馬たちのこんな能力があるなんて、私は知りませんでした。
いえ、父上も誰も知らなかったと思います。

気合いを入れて、集中して、必死で意識を集めます。
頭に鳴り響いた言葉に従い、あの子とやらを探します。
直ぐに目につきました。
五つか六つの子供だと思われます。
女の子でしょう。
劣情に興奮した腹の出た男に組み伏せられています。

あまりの怒りに意識が飛びました。
この後の出来事は、のちにインキタトゥスに教えてもらって知ったことです。
私自身の記憶ではありません。
怒りに我を忘れて、記憶に残っていないのです。

私は普段の乗馬からは信じられない見事な手綱さばきで、流れるような動きで腹の出た男に近づいたそうです。
インキタトゥスには貴族に見えたそうです。
小金持ちの商人や農民には見えなかったそうです。
私は何のためらいも見せず、その男の背中に剣を突き立てたそうです。

インキタトゥスの話では、バビエカに蹴り殺させるのが一番早く決着がついたのでしょうが、幼女に無残な情景を見せないように気遣って、剣で刺し殺したのだろうという話です。

その証拠に、剣を貴族の背中から抜かなかったそうです。
刺した剣を抜けば、血が噴き出してしまいます。
そんな事をすれば、押さえつけられている幼女に返り血が降り注いでしまいます。
私が無意識にその事を避けたのだろうというのが、インキタトゥスの考えですが、本当かどうかは誰にもわかりません。

私はいったん剣を手放して、幼女を馬上に抱き上げたそうです。
身体の半ば鞍から乗り出し、見事な身のこなしだったそうです。
今意識してやれと言われても無理ですが、無心になればできるようです。
そして貴族の男の背中に突き立った剣を回収したそうです。
そして私は、抱きあげた幼女の瞳を優しく閉じさせて、怒りに任せて縦横無尽に暴れまわったのだそうです。

貴族の次に私が狙ったのは、貴族に幼女を犯すようにけしかけていた、卑しい顔をした売春宿に主人だったそうです。
なぜそれをインキタトゥスが知っているかというと、売春宿で宿で働くチンピラたちを厳しく尋問したからだそうです。
ティシュトリヤがその巨体でチンピラを脅し、インキタトゥスが聞きだすという、役割分担がされていたのだそうです。

その間ブケパロスは、尋問の対象にならなかったチンピラを、頭部を粉砕して蹴り殺していたそうです。
最終的には売春宿の中にまで乗り込んで、皆殺しを行っていたそうです。
私が何も覚えていないのは、その惨劇を記憶するのを心が拒否したからかもしれません。

「おねえちゃん、おなかすいた」

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