「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第19話

「こちらにおいで。
美味しい餌があるよ」

チュウチュウチュウ!
ヌゥゥゥゥゥ!
キュウキュウキュキュッ!
ウメェェェェェェl!

魔鼠・魔兎・魔大鼠・魔山羊・魔羊・魔鹿など。
凄い集まり方です。
坊の中にいたら、死傷を恐れるいきおいです。
でも一から育てたので、とても可愛いです。
しかし目的のために育てているのです。
とても辛く哀しい思いを堪えて、必要な大きさと強さに育てば、殺して素材にしなければいけません。

こうやって争うような餌のやり方をするのも、競い合わせるためです。
競い合わせる事で、身体強化させます。
身体強化した個体は、魔晶石も大きく鮮やかになり、素材として使う身体の他の部分も、魔力的な品質が強化されます。
単に培養して大きくした魔獣よりも、素材として優秀です。

まあ、元々魔晶石と呼ばれるような素材がとれる魔獣は限られています。
小さく魔力量も限られている魔力器官は、魔核と呼ばれています。
硬度が高くなり、石のような状態になったモノを魔石と呼びます。
魔石の硬度がさらに高くなり、宝石のように輝くようになって初めて、魔晶石と呼ばれます。

今のこの世界では、そのような細かい分類を知っている者はいません。
そもそも魔力も魔術もなく、魔族も魔獣も魔力器官が退化しているのです。
これを何とかしなければいけませんね。
アスキス家の人達は、魔力器官を取り戻せるのでしょうか?
ミイラ化した魔族の人達が生き返ったら、アスキス家の人達は、排除されてしまうのではないのでしょうか?

アルフレット様なら、そのような事にはさせないと思いますが、少し心配です。
現金なモノですね。
アルフレット様とずっと一緒にいられて、心に余裕ができると、他人を思いやることができるようになります。

アスキス家の人達の事など、どうでもいいと思ったのは、つい最近の事です。
本当に人間とは身勝手な生き物です。
私が魔族ではなく、そんな人間なのだと、こんな考えになった時に思い知ります。
今の私には、アスキス家の人達よりも心配な存在があります。
ミイラ化した古代の魔族の人達です。

彼らが生き返ったら、彼らをあそこまで追い込んだ人族の私は、殺されるかもしれません。
殺されないまでも、排斥されるかもしれません。
人族なら確実に殺すはずです。
あれほど温厚で優しかった魔族の方々でも、許してくれないと思うのです。

アルフレット様の側にいられなくなる。
そう思うと身震いするほどの恐怖を感じてしまいます。
アルフレット様に見つからないように、ミイラを灰にしてしまおうかと考えている自分がいるのです。
その時は、吐き気がするほど自己嫌悪をに陥ります。
人間の姿を捨てる事はできないのでしょうか?
魔族になる事はできないのでしょうか?


          

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