「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第4話

「キャアアアァアアア!」

「ああ、ごめんごめん。
直ぐに変えるから」

私は最初なぜ魔族の子供が悲鳴をあげているのか、意味が分からなかった。
とりあえず、後ろに下がって怖がらせないようにした。
でも、魔族の子供の視線が私の顔に釘付けになっているので、原因が分かった。
私の顔が怖かったのだ。
王太子に斬られ、醜く歪んだ顔が怖いのだ。
私は慌てて変身魔術を使って顔を変えた。

魔族の子から怯えの表情が消えた。
これで私は確信した。
この世界にまだ魔術が残されている事を。
魔族の子供が魔術に慣れてることを。

「もう何も心配しなくていいからね。
これを飲みなさい。
体が温まりますよ」

「ありがとうございます」

魔族の子供がちゃんとお礼を言います。
人間に対してもお礼が言えるのです。
魔族は今も心優しいままです。
その事実にうれしくなってしまいました。

魔族は種族の性質自体が優しく思いやりがあります。
人間の欲深く残虐な性質とは全く違います。
心優し過ぎる魔族は、よく人間に騙され奴隷のように扱われていました。
それでも、争いを好まない魔族は人間との戦いを避けていました。
膨大な魔力と強力な魔術を使えば、何時でも人間など滅ぼせたのにです。

魔族はその魔力と魔術で、人間から身を護っていました。
どれほど人間が強欲でずる賢くても、魔族を滅ぼすことなど不可能だったのです。
魔力と魔術さえあれば。
ですが、今この世界は魔術が失われています。
魔族に人間から身を守る術はないのです。
いえ、ないと思っていました。

ですが、少なくとも、目の前の魔族の子は、魔術を知っています。
魔力の量や魔術の破壊力は分かりませんが、魔族が生き残っていたのです。
捨て子で残虐な大人達から虐待されていた私を、救い養い子として育ててくれた魔族が、滅びていなかったのです。
何をおいても救わなければいけません!

ですが慌ててはいけません。
いきなり魔族の集落が知りたいなどどいったら、この子に警戒されてしまいます。
まずは信用信頼されなければいけません。
そのためには、私には魔族に対する悪意がない事を証明しなければいけません。

「少しは温まった?
何か食べたいモノはある?
果物ならたいがいのモノはあるわ。
米や麦がないから、ごはんやパンはないの。
芋は色々あるから、焼き芋やふかし芋は作ってあげられるわよ」

「……あの、焼き芋が食べたいです。
何のお礼もできませんが、お手伝いして返させてもらいます」

ああ、本当に何も変わらない。
魔族の優しさと恩義に対する報いる心は変わっていません。

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