「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第32話

私は全家臣を引き連れて領界に向かいました。
王家が日に何度も訪れるという街道のある領界です。
ここで王家や全貴族家に対するデモンストレーションをするのです。

「いいか!
これからお嬢様がそのお力を示される。
精霊ベヒモス様の寵愛受けられている、お嬢様のお力をよく見るがいい」

ジョージが私に代わって家臣たちに話しかけます。
いえ、家臣たちだけでなく、領外に待機している王家や貴族家の使者にも聞かせているのです。
精霊様が拡声の力を貸してくれているので、多くの者に明瞭に伝わります。

私は皆に見えるように、用意された台に乗ります。
しかもその台が、精霊様のお力で隆起していくのです。
皆が驚愕して眼を見開いています。
私は隆起が止まってから、注目されているのを意識して、ゆっくりと右手を上げました。

後は精霊様が全てしてくださります。
私は演技をするだけです。
精霊様のお力で、領界に沿って濠と城壁が創り出されていきます。
領界の外側が陥没していきます。
幅二百メートル、深さ百メートルの濠が、領界を囲い守るのです。

それだけでも驚天動地の出来事なのに、さらに城壁が創り出されていくのです。
濠を創り出すために移動さる土を圧縮して固め、城壁とするのです。
高さ百メートル、厚さ三十メートルの城壁です。
それが領界を覆うように創り出されるのです。
さすがに城や地下都市とは違って、一晩で創り出すことは不可能です。
精霊様が自然消費してしまう魔力と精霊力の範囲で、ゆっくりと造られます。

見ている者たちの驚きは、眼を見開くだけではすまなくなりました。
顎が外れそうなくらい開いています。
なかにはガクガクと震えている者もいます。
その場に崩れ落ちて、神に、いえ、精霊様に祈っている者もいます。
事前に打ち合わせしていたジョージですら、直ぐに次の言葉が出てこないです。

「あ、ホン。
あぁあ、いいか、皆の者。
それがお嬢様のお力だ。
精霊様に寵愛を受けられたお嬢様のお力だ。
もし逆らうようなことがあれば、精霊様のお怒りが下る!
この世のどこに行こうと、地の果てに逃げたとしても、この世の全てに精霊様のお力が宿っているのだ。
必ず罰が下される。
その事を決して忘れるな!」

「「「「「はい」」」」」

さすがに古参の騎士や徒士は直ぐに驚愕から立ち直っています。

「当然だが、精霊様を欺くことなどできない。
王家や貴族家の密偵は直ぐに領外に出て行け。
今なら見逃してやる。
だが今この場で逃げ出さない者は、精霊様を欺こうとした罪で、主人共々殺す。
今直ぐ出て行け!」

最後にジョージが裂帛の気合で言い放ちました。

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