「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集2

克全

第29話

「この者を除いて皆殺しにしなさい」

「はい」

「「ガッオォォォォォ!」」

私の命令とジョージの返事を待って、アオとアカが剛爪をふるいました。
事前に相手を決めていたのでしょう。
アオが王太子オリバーを殺し、アカが私の妹アイラを殺しました。
二人に続いて、王太子の近衛騎士長を除いた全近衛騎士、盗賊のような王太子の新規召し抱え家臣、アイラの侍女たちを皆殺しにしました。
感傷に浸る時間などありません。
直ぐに王家に最後通告をださなければいけません。

「近衛騎士長、国王陛下に伝言してください」

「は、は、は、は」

情けない事です。
近衛の騎士。
それも王太子に配属され、隊長まで務める者が、この程度の現場を見ただけで、恐れおののいて返事もできないとは、情けなさすぎます。

「王太子が私の領地に攻め込んできて二十日間。
我慢に我慢を重ねてきましたが、盗賊まで雇って略奪に走った事は許せません。
これは王家による、宣戦布告なしの侵略と断じます。
十日後に王族の首をもらいに王都に攻め込みます。
以上です。
この恥知らずの臆病者を叩きだしなさい!」

私の命令を受けて、近衛騎士隊長は領外に叩きだされました。
王家に対する処置はこれで十分です。
必要なら攻め滅ぼせば済むことです。
その方が民のためになるでしょう。

問題は父上と母上にどう報告するかです。
最後には憎しみと哀れみしか感じられない妹でしたが、父上と母上には大切な子供の一人です。
その子供同士が殺しあったのです。
姉である私が、妹のアイラを殺してしまったのです。
受ける衝撃は、まだ子供のいない私には想像もつかないです。

「ジョージ。
父上と母上には、アイラ殺したことは直接お話しするべきだと思うの。
領地の事は任せていいかしら?」

「副団長に任せましょう。
お嬢様の側を離れる気はありません。
領地の事は、ベヒモス様にお任せすればいいと、アオとアカも言っています。
王国軍が攻め込んでくるようなら、精霊様が返り討ちにしてくれるそうです。
わびを入れたい、交渉したいと言ってくるのなら、待たせればいいのです」

なんと、私の知らない間に、アオやアカと話ができるようになっています。
ジョージが成長したのでしょうか?
それとも、アオとアカが歩み寄ってくれたのでしょうか?
もしかしたら、嘘を言っている可能性もありますね。
私にではなく、ライバルとなる独身騎士に、自分の優位をアピールしたいのかもしれませんが、嘘ならアオとアカに怒られてしまいます。

「そうですね。
攻撃してくれれば躊躇わずに滅ぼせます。
本気で謝る気があるなら、少々待たせた方がいいでしょう。
では一緒に行きましょう」

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