「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第8話

「ディラン卿、この度の件は災難であったな。
王都は魑魅魍魎の住まう魔窟。
罠に陥れられるのは日常茶飯事。
必ず挽回する機会はあります。
その時は微力ながら手助けさせていただきますよ」

「ありがとうございます、ヒロクス子爵殿」

旅を続ける私達に、領主のヒロクス子爵マテオ卿が使者を送ってきました。
城で歓待したいというのです。
明らかな罠です。
今この状況で、私達兄妹を城に招いて王家や有力者に睨まれるような真似は、討伐を覚悟した硬骨漢以外には不可能です。

そしてヒロクス子爵マテオは硬骨漢ではありません。
王国でも名の知られた愚か者です。
愚か者の上に欲深く、あまり稚拙な方法で王都の商人や民から金をだまし取ったので、内々で王都から追放されているのです。
面だって処分されることもなく、商人や民に賠償しなくてすんだのは、特権階級の子爵だったからです。

王都を追われた事で、少しは反省して賢くなればいいモノを、つまらない罠をしかけて、自らの命を縮めるなんて、愚か者以外の何者でもありません。
シーモア公爵家の嫡男として育てられたディラン様と、魔窟の聖女として鍛えられた私が、毒を盛られているのに気がつかないと、本気で考えているのでしょうか?
表向き毒見をしてみせて、私達の使う杯に毒を塗っている事は、聖騎士と聖女の私達には一目瞭然です。

「ところでヒロクス子爵マテオ卿。
卿はご存じではないのですか?」

「うむ?
なにを言っているのかね?
私が何を知らないというのかね?」

「貴族を招いて毒殺しようとした卑怯者は、その場で殺されても文句を言えないという事ですよ」

「無礼であろう!
シーモア公爵家の嫡男であろうと、家督継承前の者が、子爵家の当主を愚弄するなど、絶対に許されない事だぞ!」

マテオは真正の馬鹿なのでしょうか?
確かにディラン様は公爵家の当主ではありません。
ですが公爵家の嫡男としてロードと呼ばれる立場です。
必要なら叔父に貸し与えられている従属爵位、ロズメル伯爵を名乗る事もできるのですが、このような最低限の教育も受けていなのでしょうか?

「四の五の言うのは性にあわん。
聖騎士として、このような卑怯を見過ごすわけにはいかん。
自分の罪がない、毒殺などしようとしていないというのなら、この杯のワインを全て飲み干してもらおう。
自分でできないというのなら、私が手伝ってやろう!」

一瞬の事でした。
マテオが密かに配していた刺客の騎士達など、ディラン様は先刻承知です。
それに彼らが出てくるよりも早く、毒杯を飲ませることもできます。
さっさと謝れば、義兄上は許してくださったかもしれないのに。
ディラン様がお許しになっても、生き残る事なんてできませんけどね。
ディラン様を害そうとしたモノは、私が必ず殺します。


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