「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第8話

「ウへへへへ。
随分と奇麗な姉ちゃんだな。
修道着というのもそそるぜ。
たっぷり可愛がってやるからよ。
姉ちゃんも楽しみだろ?」

「俺たちは女の扱いには慣れているかなら。
天国にいかせてやるよ」

「おう、そうだ、そうだ。
そうなったらもう神父も司祭も神様も忘れられるぜ」

「おうよ。
俺たちが姉ちゃんの神様になってやるよ。
そのガキを殺してな!」

キャスバルは助けに行こうとした。
今度こそ姿を現わそうとした。
これがいい機会だと思った。
だが、その決意など何の意味もなかった。
盗賊たちがその場に倒れたのだ。

今回は狼が助けに現れたわけではない。
オリビア自身も何もしていない。
奇病で聖女の力を失う前でも、オリビアは治癒魔法しか使えなかった。
攻撃魔法も補助魔法も使えなかったはずだ。
いったい何が起こったのか、練達の忍者キャスバルにもわからなかった。

「ネイを殺すと言った貴方たちは、この手で殺してしまいたいけれど、ネイに人殺しを見せるわけにはいきませんから、見逃してあげます。
これからも王太子のために、人を殺し金を集めればいいのです。
神に見捨てられて滅びる国です。
今更私が情けをかけてもどうにもなりません。
かわいそうですが、民は巻き添えで死ぬしかありません」

オリビアがチラリと私の方を見ます。
信じられません。
信じたくありません!
王太子たちの無能とオリビアに対する不正義は知っていました。
ですが、盗賊を使って金を集めていたのが王太子だったとは、全く気がついていませんでした。

いえ、オリビアの言っている事が、嘘だという事もあります。
自分が陥れられたのです。
報復に罠を仕掛けた可能性もあります。
そう自分を納得させようとしても、させることができません。
重追放刑に処せられてから、ずっと見てきたオリビアです。
彼女が嘘をつかない事は、嫌になるくらい見てきました。
自分を恥じるほど見てきたのです。

「直ぐに王都に報告しましょう」

配下の一人が声をかけてきます。
私よりも経験を積んだ忍者です。
本気で殺しあえば、私の方が死ぬことになるでしょう。
その練達の忍者が、私を殺さんばかりの眼力を込めて献策するのです。
私情を押し殺し、忠実に任務を果たす忍者が、オリビアに同情し、王太子たちを増悪しているのが分かります。

「そう、だな。
だがさすがにこれは、父上に握り潰されるかもしれない。
いや、父上が上奏しても、大臣の誰かが握り潰すかもしれない」

「お任せください。
私も長く役目を果たしてきました。
誰にも知られずに、陛下にお知らせする方法を知っております。
必要ならば、誰が報告したかを隠す事もできます」

「構わん。
誰も握り潰さなかったら、私の名前で陛下のもとに届く報告だ」

キャスバルは腹をくくった。
報告を受けた国王から刺客を送られる可能性すらあるのだ。
だがそれは、目の前にいる配下も同じだ。
それだけの覚悟をして、献策しているのだ。

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