「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第2話

「ウへへへへ。
修道着を脱いだらたっぷり可愛がってやるからよ。
楽しみだろ?」

「天国にいかせてやるよ」

「おう、そうだ、そうだ。
そうなったらもう神様なんぞ忘れられるぜ」

「おうよ。
俺たちが修道女様の神様になってやるよ」

「「「「「グッヘへへへへ」」」」」

盗賊たちがオリビアに下品な言葉を投げかける。
身体を嬲る前に、心を痛めつけようとするのだ。
性根の腐った連中だった。
女を性欲のはけ口としか考えていないのだ。
キャスバルは見守るのをやめて助けに入ろうとした。

「ギャッ!」
「グッ!」
「ウァァアァアァァア!」

キャスバルは唖然としていた。
眼の前で信じられない光景が繰り広げられていた。
オリビアを襲おうとしていた盗賊たちが、野生の狼に襲われているのだ。
狼はとても警戒心の強い生き物だ。
武装した多数の人間を襲うことなど、普通は絶対にしないのだ。

不意を突かれた盗賊たちは、全く抵抗できなかった。
普段は抵抗できない弱い者だけを襲っていたのだろう。
オリビアを恐怖させるために使っていた剣や槍も、狼たちには全く役立たずだ。
力任せに振り回すものの、全く狼をとらえることができないでいる。

「ウォオオオオオン」

ボスであろうひときわ大きな狼が、勝利の雄叫びをあげている。
十六人いた盗賊が、みな血溜まりの中に斃れている。
五十数頭いる狼が、盗賊たちの血を啜り、腹を喰い破って内臓をむさぼっている。
残虐な光景に慣れているはずのキャスバルだが、吐き気をもよおしていた。
一方キャスバルより間近で見ているオリビアは、何の動揺もしていない。

「助けてくれてありがとう。
私は先に行くわね。
皆はゆっくり食事してね。
殺した命を無駄にしてはいけないのよ。
絶対に食べ残してはいけないのよ」

「ウォン!」

訓練と魔力で聴力を高めていたキャスバルは、オリビアの言葉を聞いて愕然としてしまった。
キャスバルはオリビアが善で王太子達が悪だと考えていた。
だが今の言葉は、人喰いを容認する言葉だ。
とても聖女が口にする言葉ではない。

キャスバルは今まで以上にオリビアを監視しなければいけないと考えた。
言葉のひとつひとつを記録し、善悪を判断しなければいけない。
本当の悪人がオリビアなら、王太子達は英断を下したことになる。
過去の行動が聖女に相応しいモノであったとしても、今も聖女であるとは限らない。

そう考えたキャスバルは、オリビアが死にかけたのを思い出した。
もしかしたら、その時に本当のオリビアは死んでいたのかもしれない。
何者かがオリビアの遺体を乗っ取ったのかもしれない。
キャスバルはそういう考えに至った。


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