「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第1話

ラムダフォード王国の忍者頭キャスバルは、王都を重追放された、元レフトランド公爵令嬢オリビアを尾行していた。
今回の処罰に関しては、国王も王国も関係していなかった。
全ては王太子とその側近達によって決められてしまっていた。
国王ウィリアムはその事に強い不信と不満を持っていた。

オリビアは慈悲深い性格で、王都での貧民炊き出しに進んで参加し、孤児院への奉仕活動にも積極的に参加していた。
聖女と呼ばれる原動力ともなった治癒術も、礼金など見込めない貧民にも惜しみなく使っていた。
金持ちや貴族からは礼金を受けていたが、その礼金を全て炊き出しや孤児院の運営費に寄付していた。

そのため王都の民には絶大な人気を誇っていたが、原因不明の奇病に冒され高熱で寝込んでからは、治癒術を使えなくなっていた。
奇跡の力を失ってからも、私財を投入して貧民や孤児への奉仕を続けるほど慈悲深い性格なのだ。
そんなオリビアが、新たな聖女に嫉妬して殺そうとしたなど、信じられるはずがないのだ。

そのためオリビアが重追放にされたと知った貧民が、王城を囲んで抗議運動を始めてしまう始末だ。
その難民を王太子の側近が斬り殺したので、王家王国の名声は地に落ちている。
にもかかわらず、王太子と側近達は全く反省していない。
国王と王国首脳部が強い危機感を持って当然の状況となっている。

だが国王も王国首脳部も、一旦王太子とその側近達がくだした刑を撤回することはもちろん、再調査することも難しかった。
王太子の側近は、次期国王の側近となる者たちだ。
つまり王国首脳部の形成する有力貴族の嫡男たちなのだ。

もし私利私欲でオリビアを重追放にしたことが判明すれば、国王は可愛い嫡男を処罰しなければいけないし、有力貴族たちも嫡男を処罰しなければいけない。
だが、ここで不正義を見逃して愚か者たちに権力を与えれば、この国が滅びてしまう事も分かっていた。

英邁で名高いウィリアム国王といえど、直ぐに決断はくだせなかった。
そこで時間稼ぎにオリビアを追跡調査護衛することを命じた。
王太子達の素行を調査し、今回の刑が正当であるか密かに調査するあいだに、オリビアが殺されないように手を打ったのだ。

それほど王太子達がくだした刑は情け容赦のない過酷なモノだった。
王都の周囲百キロメートル四方に入る事を許さない重追放刑だが、それに加えて一切の私財を持つことを許さなかったのだ。
許されたのは粗末な修道着一枚だっけ。
食べ物を得るのも、民に施してもらわなればならなくなったのだ。
しかも王都を少し離れれば、山賊や盗賊が横行している現状だ。
重追放とは表向きの話で、事実上の死刑判決なのだ。

「おい、修道女様よ。
死にたくなければ身ぐるみ脱いて置いて行けや」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品