「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第6話

私は肉体関係を迫ってくるヴィクトルを軍城から叩きだしてやりました。
ソフィアもローザもクラリスも同じでした。
妹たちも甘言に騙されるような馬鹿ではないのです。
ただ、ローザはちょっとだけ気が荒いのです。
よほど腹を立てていたのでしょう。
問答無用で戦いを始めてしまいました。

ローザは投石機で動物の血の入った樽を飛ばしたのです。
バルフォア侯爵軍に向けて城兵に飛ばさせたのです。
自身は叩きだした婚約者に矢を射かけたのです。
射殺す事もできたのに、そうはしませんでした。
血袋を矢じりにくくり付けた矢を、射て当てたのです。

軍城の前は阿鼻叫喚の地獄絵図となりました。
一番安全な時期であろうとも、軍城の周囲は魔境なのです。
魔境が一番狭い月齢であっても、魔獣と亜竜種が跳梁跋扈する魔境なのです。
そこに獣の血をまき散らしたのですから、どのような状況になるかは想像できるでしょう。

私たちの元婚約者四人と彼らの護衛は、血の臭いに集まってきた魔獣と亜竜種たちに喰い殺されました。
悲しくもなければうれしくもありません。
単なる敵の一人でしかありません。
しかも有象無象の雑兵感覚です。
貴族の政略による婚約でしたが、結婚しなくてすんでよかったと思います。
彼らと決婚して男爵夫人になるよりも、従兄や又従兄を婿にして家に残った方がいいです。

魔獣と亜竜種が暴れまわっています。
バルフォア侯爵軍が襲われて恐慌状態になっています。
私たちの欺瞞情報で安全地帯だと思い込んできたのでしょう。
確かに魔獣除けや亜竜種除けの香を激しく焚けば、ある程度は魔獣や亜竜種を遠ざける事はできます。
ですがそれは、あくまで魔獣と亜竜種が血の匂い惹きつけられていない場合です。
今のように濃密な血臭が立ち込めていたら、香の効果も無効になります。

バルフォア侯爵家最精鋭の一万が、なすすべなく喰い殺されています。
中には魔獣相手に奮戦しているものもいます。
亜竜相手に抵抗している者もいます。
ですがそれもわずかな時間です。
数十数百と集まってくる亜竜種を皆殺しにする事は不可能です。
逃げる事も無理です。

「ファティマお姉様。
追撃をしなくていいのですか?
どうせなら輜重部隊二万も壊滅させた方がいいのではありませんか?」

「そこまでする必要はありませんよ、ローザ。
輜重兵は無理矢理動員された貧民や領民兵でしょう。
彼らを殺したいわけではありません。
もうバルフォア侯爵家に、この地まで遠征する余裕はないでしょう。
この機会を利用して、王家がバルフォア侯爵家を抑えにかかるでしょう。
有力貴族の中には、バルフォア侯爵領を狙う者もあらわれるでしょう。
少なくとも寄騎貴族士族を切り崩しにかかります。
今私たちがしなければいけないのは、領内の結束強化です。
私もローザも、急いで婿を選ばなければいけませんよ」

「はい、お姉様」

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