「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第2話

「今回実際に山脈越えをしてよくわかったよ。
バーリー男爵家が塩を手に入れられるようになった事の大きさが。
月齢による魔境の大きさの変化を計算して、時には断絶する山道を命懸けで越えて、貴重な素材を代償に塩を手に入れなきゃならなかった。
しかもどれだけ法外な税を課せられても、バルフォア侯爵領を通過しなければならないから、バーリー男爵家は陪臣も同然だった。
いや、金を産む鶏もどうぜんだった。
それをファティマが塩を創り出すことに成功したから、無理に山脈を越えて交易する必要ななくなった。
それどころか、塩の購入量に左右されていた人口を一気に増やせるようになった。
バルフォア侯爵がなりふり構わず侵攻を考えるのも仕方がないよ。
この未開地と魔境を領地に加えられたら、王家と対抗する事も夢ではないからね」

ヴィクトルの言う通りです。
だからこそ最初は、塩を創り出すのをあきらめたのです。
バルフォア侯爵に目をつけられないように、不当に高い金額でも買っていました。
多くの領民を魔獣や亜竜に喰い殺される事になっても、交易部隊を編成してバルフォア侯爵領に送っていました。

ですが先代のバルフォア侯爵が亡くなられ、当代のバルフォア侯爵が跡を継ぐことになって、それまでも不当だった塩の価格や関税が、領地が維持できないくらいの高額になったのです。

明らかに我が家を乗っ取ろうとしていました。
その当時はまだ弟のイヴァンが生まれていなかったので、私に婿を送ればいいと考えていたのでしょう。
弟か叔父を私の婿に送り込もうとしていました。
我が家も当初は仕方ないとあきらめていました。

ですが弟のイヴァンが生まれた以上、家は男系が継ぐものなのです。
本来なら私の婿も、分家して士族になった従兄弟や又従兄弟から選ぶのが、貴族の習慣としては正しい選択なのです。
それを慣習を破ってまでバルフォア侯爵家から婿をとるのは、我が家が弱小男爵家で、バルフォア侯爵が力を背景に弱小貴族を威圧する横暴な人間だからです。

ここでバルフォア侯爵がイヴァンを暗殺しようとしなければ、戦争を覚悟に塩を創り出したりはしませんでした。
魔境と未開地の境界、危険な奥山に領民を送ってでも、高額になった関税を払ってでも必要な量の塩を買って、バルフォア侯爵家に利を与えることで関係改善をしたでしょう。

ですが、イヴァンを暗殺しようとした相手に、頭をさげる気になりません。
滅亡覚悟に戦う以外の選択はありませんでした。
バルフォア侯爵に裏切りを誘われた一族も、きっぱりと断ってくれました。
共にバルフォア侯爵家と戦うと忠誠を誓ってくたのです。
だからこそ、戦略物資である塩を、草木を燃やして灰にすれば手に入れられると、当主である父上に伝えたのです。

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