「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第2話

「王太子殿下、これは私的な話でございまして……」

飛ぶように王太子殿下の御前に駆けつけたヘイスティングズ伯爵が、顔面蒼白になって言い訳しています。

「黙れ、ヘイスティングズ伯爵!
貴族の結婚は王家の許可が必要な公的な事だ!
それを王太子の余の前で私的と公言するか!」

ああ、そういう事ですか。
私達弱小貴族には厳しくありませんが、高位貴族が同盟して王家に敵対しないように、婚姻は厳しく制限されているのです。

「いえ、その、はい、公的な面もございますが……
その、はい、あの、そうです!
今回の件は、まだ王家に報告していない、交渉段階の話でございまして」

「ほう。
まだ交渉段階で決まってもいない婚約を、公衆の面前で、いかにも決まった婚約話のように破棄し、リヴァン男爵とエミリー嬢に恥をかかせたというのか?
いかにも非常識で礼儀知らずで恥知らずなヘイスティングズ伯爵らしい行いだな。
だがそのような嘘が、王家に通じると本気で思っているのか?
貴族たちの言動は、常に注意深く調べている。
ヘイスティングズ伯爵が寄り親の立場を利用して、寄り子たちに無理難題を敷いている事は調べがついている。
今回の婚約話も、ヘイスティングズ伯爵がリヴァン男爵家の銀鉱山を奪おうとして、強要したというのもな!」

王太子殿下の怒りは相当なモノです!
その視線には、武に疎い私でも分かるほどの殺意が込められています。
ヘイスティングズ伯爵が遠目にもわかるほどガタガタと震えています。
それも当然でしょう。
王太子殿下は厳格で評判な方なのです。
普段はとても温厚でお優しいという評判ですが、不義不正にはとても厳しく、悪事を行ったものには一切の容赦をなされないそうです。

あ!
これは、一生嘲笑されてしまいますね。
王太子殿下に叱責されて、ヘイスティングズ伯爵が失禁しています。
でも仕方ないことかもしれません。
王太子殿下が厳格なのは自分に対してもなのです。
幼い頃から勉学に励まれ、今では王国で二番目に強い騎士と評判なのです。

「ブリーダルベイン侯爵!
ネヴァヤ!」

「「はい!」」

あ、今度はブリーダルベイン侯爵とネヴァヤ嬢が呼びつけられました。
二人にも何か落ち度があるのでしょうか?
ヘイスティングズ伯爵がその場に崩れ落ちています。
王太子殿下に視線が外れて気が抜けたのかもしれません。
あ、今気がつきましたが、すでにダニエルが床に倒れています。
ダニエルの事などぜんぜん視線に入っていませんでした。
周りが広く濡れていますから、とうの昔に失禁していたのですね。

「ブリーダルベイン侯爵!
リヴァン男爵家に銀鉱山落盤事件!
正直に話して余の慈悲を請うのか?
それともこの場で余に成敗されるのか?
今直ぐ返答いたせ!」

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