「ざまぁ」「婚約破棄」短編集3巻

克全

第2話悪役令嬢マティルデ視点

「まぁ、今日はこれで五度目ですわ。
これ以上は御身体に触ります。
それに、お腹の子にも悪いですし」

「余の身体は大丈夫だ!
余は絶倫なのじゃ!
腹の子は流れても構わん。
また作ればよい!」

仕方ありませんね。
今はこの馬鹿王太子の寵愛を失うわけにはいかないです。
子供はまた孕めます。
別に王太子の種である必要もありません。
むしろこんな馬鹿の子は産みたくないですね。

性欲だけの愚かな王太子。
王家が十数年かけて仕掛けた謀略を、女に目がくらんで台無しにした愚か者。
性欲を刺激されると、平気で殺人まで犯す色魔。
これまでも欲情して家臣の妻を犯し、隠蔽するために忠臣を謀殺してきた異常者。

だからこそ、私のような女が権力を握ることができるのです。
泥水を啜って生きてきた私には、この世に憚るモノなどありません。
腐った食べ物を奪い合って生き残ってきた私には、神など無意味です。
弱いモノは殺され喰われるだけ、人間は同じ人間を喰って生き残るのです。
持てる者から奪わなければ、飢えて死ぬのは私。

もう惨めな生活に戻る気はありません。
この異常性欲者を操って、栄耀栄華を極めるのです。
失敗すれば死ぬだけです。
これまでと同じです。
貧民街で悪臭漂う腐った肉を孤児同士で争って殺されるのも、国を奪おうとして負けて死ぬのも同じ死です。

「殿下!
大変でございます、殿下!」

「じゃまするな!
今いいとこなのだ!」

「しかしながら殿下、カーライル伯爵家のフラヴィアが上使を斬り殺しました!
しかも殺した上使の供に宣戦布告の書状を持たせました」

「なんだと!
おのれ生意気な!
温情で助命して雌奴隷として飼ってやろうと思っていたのに。
温情を無視するなら責め殺してしまえ!」

「しかしながら殿下、誰も戦に出たがりませんので……」

水龍を従えるという伝説のあるカーライル伯爵家の令嬢フラヴィア。
王家が十数年かけて結婚という方法で取り込もうとしたのも、その伝説の所為。
伝説が本当ならば、滅ぶのはこの国であり、殺されるのはカーライル伯爵と正室を嬲り殺しにした王太子。
一緒に滅びたい貴族など一家もなくて当然でしょう。

フラヴィアはどんな女なのでしょうね。
私の欲望のために父母を殺された薄幸の令嬢でしょうか?
話に聞くには、父母から惜しみない愛情を注がれて育ったという事ですが、肉親の愛情どころか友情さえ知らない私には、理解不能どころか妬み嫉みが湧いてくるだけですね。

「ねえ殿下。
ここは憶病な貴族共に殿下の武勇を見せつけるべきではありませんか?」


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