「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第1話パンの種類

「いらっしゃい。
なにが必要ですか?」

「すみません、お金がなくて、ライ麦パンをください」

「だいじょうぶですよ。
ライ麦パンも大切な商品ですから」

パン屋の看板娘エラは、貧しい身なりの女性にも満面の笑みで答えた。
王都のほとんどのパン屋は、小麦パンとライ麦パンを扱う店に分かれていた。
特に高級な白パンを扱うパン屋は、ライ麦を混ぜていると疑われないように、ライ麦パンを売らないようにしていた。

だがエラのパン屋は、エラが親から経営を引き継いでからは、小麦パンとライ麦パンの両方を売るようになっていた。
そこにはエラの信念があった。
貧民のパン、寒冷地のパン、荒地のパンと蔑まれているライ麦パンも、独特の風味で美味しいというエラの信念だった。

さらに種分けすれば、小麦のパンに多くの種類があった。
小麦を丁寧にふるいにかけた、純白の上等な小麦粉を使って焼かれた白パン。
その白パンも、小麦の産地によって等級が分けられていた。
白パンと菓子パンはとても高価で、庶民が食べられる金額ではなく、修道院の院長や大商人、貴人と呼ばれる人が食べた。

茶パンは普通の人達が食べるパンで、一般的な役人や質素な聖職者、ほどほど成功している商人や腕のよい職人が食べた。
ただパンは庶民の主食で、パンが購入できないようになると暴動が起こるので、銀貨一枚で購入できるようになっていて、しかも国や都市が厳格に重量が定めていた。
パンに大小の違いはあるものの、茶パン、黒パン、ライ麦パンは法律通り銀貨一枚で量り売りされていた。

「ライ麦パンはどれでも値段は一緒です。
欲しいパンを言って下さいね」

だがさすがに別の種類のパンを一緒に量り売りはできないので、同じ茶パン、黒パン、ライ麦パンを量り売りしていた。
黒パンと呼ばれている全粒パンは栄養が豊富で、肉を食べられない貧民の貴重な蛋白源だった。
さらにエラが焼きあげるパンは、ケガを癒し体力を回復させる力があった。
誰も知らないことだったし、誰にも知らえないように、エラは意識して極微量の力しか与えていなかった。

「はい、ありがとうございます。
こちらのパンを食べるようになって、娘の病気が少し良くなった気がするのです」

菓子パン :上等の小麦粉に卵、バター、香辛料、サフランを加えたパン
白パン  :ふるいがかけられた上等な小麦粉を使った高級パン
茶パン  :ふるいのあらい中級小麦粉を使った中級パン
黒パン  :ふるいがかけられていない全粒パン、肉体労働者のパン
:大麦と小麦を混ぜた混合粉を使った貧民パン
ライ麦パン:ライ麦を殻ごとライ麦粉にして使ったパン

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