「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第3話

「私が全ての病人の家を回ります。
自力で治療に来れる人は、来てくださっても構いませんが、決して民に無理はさせないでください。
強制的に連れてくる事は絶対に止めてください」

「分かりました、癒しの聖女殿」

自称王太子のジャクソンが簡単に返事してくれますが、全く信用できません。
ボルゴア王国に来てから初めて知ったことですが、ジャクソンは第四王子であって、王太子ではなかったのです。
私を連れてきた功績で王太子に選ばれるかもしれませんが、出会った時には王太子ではなかったのです。

「ロッシュ公爵ルーベン卿。
配下の将兵にしっかりと守らせてください」

「承りました。
ジュード、しっかりと将兵を把握し、民に負担をかけるな。
手柄を焦って民を殺すバカがでてくるかもしれん」

ジャクソン第四王子に任せると、なにをやりだすか分からないので、フィンリー国王が私の護衛に付けてくれた、王家の分家で大将軍を務めるロッシュ公爵家当主、ルーベン卿に念を押しておきました。

私の危惧を理解してくれたのでしょう、ルーベン卿自身は私の側を離れず、息子のジュード卿に実際の王都指揮を任せました。
私の基準では、人間にしては腕の立つ騎士でしょう。
アリスランド王国では、騎士の基準に達するか疑問ですが、今まで旅してきた国の基準では、騎士長が務まるくらいの強さがあります。

私は急ぎ足で多くの家を回りました。
大規模治癒魔法を使えば済む事なのですが、それでは力の見せ過ぎになります。
治癒魔法の効果を人間の聖女の範疇に止めるのなら、一人一人に接触して治療するしかありません。
手早く短時間に、でも必ず手で額を触れて、疫病を消し体力を回復させます。
ですがそれでは、死の淵に立たされ死にかけている人の治療が間に合わなくなりますので、人間には分からないように体力を回復させる魔法を放ちます。

「ロッシュ公爵。
今この国の人口は何人くらいですか?
疫病でどれくらいの人間が死んだのですか?」

私を連れてきたことで、王太子競争で勝てると思い、傲慢な態度をとっているジャクソン第四王子に腹が立ってしまい、嫌味と牽制でまた同じ質問しました。
さっき確認のためにジャクソン第四王子に同じ質問をしたのですが、疫病で多くの人が死んでしまった今の人口はともかく、治癒の聖女を探しに出る前の人口さえ知らなかったのです。
私に見下されているの気がついた側近達は、危機感を持っているようですが、ジャクソン第四王子は全く分かっていません。

救国の聖女となった私が、ジャクソン第四王子の立太子に反対したらどうなるのか、全く理解できないのです。
しかし、問題もあります。
他の兄弟達が同じくらいバカな場合です。
その時には、傍系王族のロッシュ公爵やジュード卿でも、守護神と契約を続けられるのでしょうか?

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品