「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第14話追放8日目

オリビアは王都の方向に眼を向けて、とても哀しそうな表情になった。
何もかも諦めそうな、絶望感が一瞬浮かんだ。
だが直ぐに表情が変わった。
不屈の表情というべきなのだろうか、決意に満ちた表情になった。

オリビアは今迄では考えられない、人間離れした速度で村や街を巡った。
残像が浮かぶような速度で移動している時は、表情など分からない。
だが、村や街に立ち寄るときは、仮面を被っているように無表情だった。
そして村や街では、もう民を口移しで救うようなことはなかった。
全てを魔術で代用したのだ。

オリビアが使ったのは、禁忌の魔法だった
アンデットを創り出して使役する、神殿が認めていない、邪悪とされる魔法だ。
恐らく今まで封印していたのであろう。
だが今は、躊躇うことなく大規模な儀式魔法陣を地面に描き、要所に魔窟で集めた魔核・魔石・魔晶石・魔宝石を置き、死霊術を使う。

現れたのはスケルトンだった。
ゾンビと呼ばれるおぞましい死霊ではなく、比較的嫌悪感の少ない死霊だった。
だがそれでも、普通なら恐れられ、民が逃げ出してしまう。
だが、飢えて村人の大半が半死半生の所では、食糧と持って来てくてくれるのなら、スケルトンであろうと救世主となる。

オリビアは場所によって対応を変えていた。
少し困窮しているような村や街では、無言で食糧を置いて直ぐに去った。
だが、神殿領や生徒会役員達の台所領、いや、ルーカス大神官とメグ聖女が影響力を発揮している領地では、人々が飢え死にしそうなので、躊躇うことなく死霊術を使ってスケルトンを出現させ、身動きできない民を救った。

「待て!
このまま逃げられると思うなよ、邪術使い!
神に仕える神官として、邪術使いを見過ごすことなどできん。
死ね!」

旅の修行神官だった。
服装と手に持つ聖印から、大地神殿に仕える神官だと知れた。
死者を地に帰して豊穣の実りに変える事を教義とする大地神殿の神官は、特に死霊術師を忌み嫌っていた。
それが例え民を助けるスケルトンであろうと、斃して浄化しようとする。
今のオリビアには邪魔者以外の何者でもなかった。

決して大地神殿の神官が悪ではない。
ただ己の信じる教義のために、正義をなそうとしただけだった。
だが今のオリビアから見れば、飢える民を助けるのを邪魔をする者だ。
眼の前で飢えている人を助けるよりも神の教えを優先する狂信者にしか見えない。
だから殺した。

情け容赦なく、表情を変える事もなく、ただ一撃で心臓を破壊して殺した。
オリビアが民に食糧を配らなければ、神官の遺体は民に喰われていただろう。
それほど民は飢えていた。
だがオリビアが食糧をスケルトンに配らせたことと、オリビアが骨すら灰になるまで遺体を焼いた事で、民に喰われる事はなかった。




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