「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第10話追放5日目

「ここはどこなのだ?
これが我が国の状態なのか?
余はこれに気がつかず、民を苦しめていたのか?!」

血を吐くような悔恨の言葉だった。
重臣達はその言葉に深く心を痛めていた。
いや、自責の念で死にたいほどだった。
だが死ぬわけにはいかなかった。
息子達がしでかした悪事の後始末をつけなければ、死ぬに死ねなかった。

遠見の鏡に映るのは、死屍累々たる村の惨状だった。
オリビアが急ぎ駆けつけた村には、誰一人生存者がいなかった。
間に合わなかったのだ。
オリビアがなにかつぶやいているのが鏡に映る。
だが声までは伝わってこない。
今日も息子達、学園生徒会役員の魔力を使って遠見の鏡を稼働させているが、その映像は不鮮明で声は一切伝わってこない。

オリビアは翔けるような速さで近隣の村々を訪れていた。
だが生き残っている人間は一人もいなかった。
途中からオリビアが涙を流しているのが分かった。
これまで伝わってきた事実から、オリビアが肝が太く気丈で有能なのは間違いな。
その胆力の塊のようなオリビアが、涙を流すような惨状なのだ。
臭いも音も伝わらない遠見の鏡では、感じる事のできない、耐えきれないモノがあるのを感じ、重臣達は恥じ入るばかりだった。

特に恥じ入り死にたい気持ちになっていたのは、右大臣を務めるタートン公爵ジャック卿だった。
遠見の鏡が幾つもの滅んだ村を映しているのを見て、それが息子レオに台所領として預けた村だと気がついたからだ。

「レオ!
ここに映し出されている村々は、私がお前に預けた村だな!
なぜこのような事をした!
このような残虐非道な真似をした理由を言え!」

「ふん!
愚かな!
よくそれで右大臣を務めているな!
全ては聖女様のためよ!
神のお言葉を伝える聖女様が、罪深き民に贖罪の機会をお与えになったのだ。
だが卑しき民共は、その機会を生かさず、作物を隠匿しようとした。
だから聖なる役目を務める神官たちと一緒に、贖罪を手伝ってやったのだ。
愚かな父タートン公爵。
早々に私に右大臣の役目を引き渡し、神のご意思に従うのだ!」

タートン公爵は激怒した。
堪忍袋の緒が切れた。
本来なら、太陽神殿を追い込むための証人として、レオは生かしておかなければいけなかった。
だが怒りのあまり、論も証拠も後回しでいいと考えてしまった。

レオは遠見の鏡を映すために魔力を限界まで絞り出していた。
一方タートン公爵は、攻撃魔法に特化していないものの、公爵家当主に相応しい魔力を持っていた。
その魔力を全開にして、レオの頭を握り潰した。
周りに脳漿と肉片が飛び散るのも構わず、怒りのあまりレオを殺した、はずだったのだが……


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